アメリカ社会を蝕む
企業の利益至上主義

 この中華式経営は、実はアメリカが考えている商売と同じラインだ。アメリカの方が中華系よりは倫理的に日本に近いため、日本人が不快さを感じることは比較的少ないが、「商機」を逃さず、なんでも商売に結び付けるのはアメリカ人も同じだ。例えば、HIVがまだ不治の病だった時に、米国の保険会社がいち早く売り出したのは、「生命保険金の前払い制度」だった。死んでから入る生命保険額の8割ほどを、まだ生きているHIV患者に前払いするのだ。その代わり、死んでからの受取人をその保険会社にする。会社は差額の20%分を利益にできるという仕組みである。

 アメリカはこういったメンタリティをより洗練させ、短期的な利益追求、株主偏重の経営方針、トップダウンの戦略徹底、成果主義などの形で、エクゼクティブ教育を行っている。

 その果てには何があるか。マギル大学のヘンリー・ミンツバーグは警鐘を鳴らしている。

 こういったアメリカ流のやり方は、現在アメリカ自身の社会を大きく蝕んでいる。アメリカ企業は短期的利益が落ち込むと、すぐに多くの労働者を解雇して社会不安をつくり出す。一方でエグゼクティブは、一生かかっても使い切れないくらいの報酬を得て、その富を増やすことばかり考えている。このような問題は明らかなのにもかかわらず、政治家は解決できずにいる。しがらみのないトランプ候補が、過激な発言にもかかわらず人気なのは、こういった既存政治家の無策に人々が不満を感じているからだ。

 アメリカや中華系の「成功者」からすると、一般労働者の人生など知ったことではない。ゴールドマンサックスの社員が顧客のことを「マペット」(操り人形)という隠語で呼んでいたという事実がそれを物語っている。実際、現在のアメリカでは、国内の富の40%が人口全体のわずか1%の人々のよって所有されている。世界で見ても、トップ62人の資産が、世界全体の約半分を占めるという事態になっている。

 その一方で、一般の人々の労働環境は悪化し、失業率は増加、離婚も増え、教育現場は荒廃し、犯罪率が上昇する。米国の中学生の数学と科学の能力は、ベトナムよりも下位だ。

 ミンツバーグは、会社組織をコミュニティとして育ててきた日本の組織文化の重要性を指摘する。彼は今こそ日本人は日本の組織文化の本質に立ち返るべきだと主張する。

 かつてホンダ(本田技研工業)は、米国のモータサイクル市場で大成功を収めたとき、米国のボストンコンサルティングがその成功の秘密を分析した。彼らの分析では、本田宗一郎の類稀なるリーダーシップと緻密なマーケティングに基づく大胆な戦略が、功を奏したというものだった。

 しかしその後、この調査結果に不信を抱いたスタンフォードビジネススクールの教授、リチャード・パスカルがホンダの幹部および社員に綿密なインタビューを行ったところ、全く違った結論を得た。ホンダは失敗ばかりしていたのだ。重要なのは失敗から学び、そこから得た経験知を共有し、また新たなチャレンジを行うという繰り返しが、ホンダを一流企業へと押し上げたのだった。