EYアドバイザリーが「フォーチュン・グローバル500」企業と「日経225」企業、それぞれ約100社のCFOについて調査したところ、そのキャリアの違いが大きく浮かび上がった。すなわち、欧米のグローバル企業では、さまざまな国や地域、事業を経験させながら、経理・財務にも経営戦略や事業にも明るい、言わば「スーパーCFO」を育成している。この結果を裏づけるように、多くの調査がCFOに期待される能力と役割が拡大していることを示している。
いま「藤沢武夫的」CFOが
求められている
「お金のことは任せる」
「それじゃお金のほうは私が引き受けよう。(中略)機械が欲しいとか何がしたいということについては、いちばん仕事のしやすい方法を私が講じましょう(注1)」
このやりとりは、1949年(昭和24年)春、本田宗一郎氏とその右腕といわれた藤沢武夫氏が初めて会った時に交わした会話の一部である。
EYアドバイザリーのパートナー。ビッグ・フォー監査法人(法定監査、株式公開支援業務)、日系投資業の在外子会社のコントローラー、およびCFO(約9年間アメリカに駐在)、外資系コンサルティング会社にて経理財務業務改善、米国会計基準に準ずる財務諸表の作成支援、バリュエーション(価値評価)、財務デュー・ディリジェンス等を経験。現在、ファイナンス・トランスフォーメーション・サービスのリーダーとして、経営管理および子会社管理の改善、経理・財務関連業務プロセスの改善、IFRS導入等の支援に従事。公認会計士。
藤沢氏は、資金調達や設備投資、銀行との交渉といった「お金の仕事」だけでなく、販売網の整備、生産管理や品質管理などのプロセス設計、アメリカ市場への進出、人事査定制度、はては労働組合との交渉と、「戦略や経営の仕事」も担当した。言うなれば、CFO(最高財務責任者)とCOO(最高執行責任者)の両方の役割を果たした。
こうした昔の名経営者のエピソードをひも解くと、「当時は仕方なかった(いまとは違う)」「ベンチャーでは当たり前(成熟した企業組織ではありえない)」という声が聞こえてきそうだが、実はいま、グローバル・ビジネスの世界では、こうした「藤沢武夫的」CFO、言い換えれば、経理・財務のみならず、事業や経営にも精通したCFOがあちこちで登場している。
我々は現在、VUCAワールド、すなわち、不安定性(volatility)と不確実性(uncertainty)が高く、しかも日々複雑性(complexity)を増しており、混沌(ambiguity)とした世界に身を置いている。
このようにリスクの高い経営環境では、歴戦の将であるCEOや事業部門のシニア・マネジャーたちの経験や勘ピュータを補完する、事実や科学的アプローチに基づく客観的な情報やデータが不可欠である。
とりわけ株式市場からの圧力が高い欧米企業では、ヒト・モノ・カネの資源をグローバルに最適配分し、企業価値をさらに向上させることが求められている。
そこで、CFOへの期待が高まっているわけだが、いまや財務数値や管理会計のデータを提供するだけでは十分ではない。CEOの戦略参謀として、企業価値の向上という観点から、グループ全体および各事業部門の戦略や計画について、漏れや見直しを指摘したり、新たな選択肢を提示したりすることが期待されている。
ただしそのためには、十八番のファイナンス・リテラシーだけでなく、個々の事業について、製品やサービス、技術、市場の特性や将来予測、競合状況、商慣習、ビジネスモデルなどを理解できるビジネス・リテラシーが必要となる。
このほかにも、事業ポートフォリオ、R&Dやマーケティングにおける各種投資、キャッシュ・マネジメント、バリューチェーン、情報システム、コーポレート・ガバナンスなど、地域や事業部門ごとに部分最適に陥りやすい機能や活動をグローバルに最適化するといった大仕事も、CFOが先頭に立って推進すべき課題であろう。
注1)藤沢武夫『経営に終わりはない』(ネスコ、1986年。1998年に文春文庫で復刻)