マルチナショナル型における
求心力と遠心力の司令塔

図表1「マルチナショナル型の組織形態とCFO」にマルチナショナル型の組織形態、およびCFOの位置付けを示した。

 本国本社からの権限委譲の受け皿となり、迅速な現地適合の中核を担う組織がRHQである。地域事情に精通したRHQがグローバル経営に遠心力を働かせる。だが、忘れてならないのが遠心力と求心力のバランスである。企業活動が地理的に拡大し、事業スピードが上がるにつれ、それをグリップする求心力をあわせて強化しなければ、グローバル企業としての強みや効率性が失われる可能性がある。

 そこで重要になるのがCFOの役割である。グローバル経営のグリップを利かせる最も有効な手段が会計の活用であるからだ。前述の大航海時代の欧州系マルチナショナル型企業の発展を支えたのが、同時期に発達した期間損益管理という会計技術であった。現在においても、財務・会計数値を通じて企業内外の情報をトータルに把握する立場にあるCFOが、企業の遠心力と求心力のバランスを司る司令塔となる。

 マルチナショナル型の組織では、各RHQに地域CFOが置かれる。地域CFOは地域CEOとグローバルCFOの2人の上司を持つ。大きな権限を委譲された地域CEOにとって、地域CFOはお目付け役兼サポート役といったところだろう。お目付け役は求心力、サポート役は遠心力に対応する。つまり地域CFOは、遠心力と求心力の重要な結節点に位置している。

 地域CFOを束ねる本社のグローバルCFOが、より重大な責務を負うことは言うまでもない。地域CEOの経営判断をナビゲートする役割を持つ地域CFOを監督するために、グローバルCFO自身も各地域の市場環境や自社事業に対する深い理解と洞察力を持たなければならない。あわせて、地域CFOが適切に業務を遂行するための環境づくり(業務ルール・プロセスの標準化やデータ・IT基盤の整備など)も、グローバルCFOの重要な仕事である。

トランスナショナル型における
相互牽制とCOEの統合

 次に、トランスナショナル型モデルを採用する企業は、図表2「トランスナショナル型の組織形態とCFO」のようなマトリックス状の組織を形成することが多い。縦軸を管理するのは、世界各地に最適配置された機能HQ(COE)である。そこには、機能別のCxOをサポートする機能CFOが存在する。たとえば、マー ケティングCFOはグローバル/ローカルのマーケティング費用の配分や統制などを指揮する。また、R&DのCFOは世界のR&D拠点の最適配置、研究テーマの優先順位付け、R&D案件ごとの継続・拡大・中止について、計数面から意思決定をナビゲートする。

 当然、横軸の各地域にもCEOやCFOが存在する。地域CFOは担当地域の連結BSおよびPLに責任を持ち、同時に財務面から地域CEOをサポートする。

 トランスナショナル型の要件として、グローバル効率と現地適合を高次元で両立させることを挙げたが、その核心は相互牽制が組織に埋め込まれていることにある。マトリックス組織においては、地域と機能の間で意見が衝突し、判断が分かれることがたびたび発生する。これはネガティブな事象ではなく、地域と機能が適正に牽制することで、最適解に近づいていく、というのがトランスナショナル型の考え方である。

 どのような企業においても部門間の利害対立はよくあることだが、日本企業でよく見られるのは「足して2で割る」式の妥協か、長年の貸し借り関係、あるいは一種のパワー・ゲームによる解決策である。一方で、トランスナショナル型の企業が目指すのは客観的な事実や情報に基づく解決である。

 機能CFOと地域CFO、計数に明るい者同士の話し合いの中で、おのずと最適解が導かれる場合もあるだろう。それでも解決が難しい時には、計数管理のトップであるグローバルCFOが俯瞰的な視点から行司役を果たすこともある。