挫折も経験しながら
一歩一歩成長していく
小林 ネパール地震の支援活動はあくまで成功事例で、生徒の中には挫折を経験してる子もたくさんいます。例えば、アサイーの何倍もビタミンが豊富といわれる植物「グアヤサ」に目をつけて「グアヤサを日本で流通させ、フェアトレードに貢献する!」と盛り上がった生徒たちがいました。「グアヤサ」はエクアドルを産地とし、既にアメリカで流行しつつあるようなので、日本でも流行らせれば、日本人も健康になれるし、エクアドルの農園も潤うし、フェアトレードという概念を広げることにもつながると見込んだんです。win-winで夢のようなプロジェクトが立ち上がったと大いに期待しました。ところが実際にエクアドルの生産者にコンタクトしてみると、グアヤサを短期間で増産することは難しく、アメリカへの輸出で手一杯ということが判明。さらに日本で「特保」を取得するためには、難易度の高い審査をクリアする必要がありました。その2点を理由に、プロジェクトは行き詰まってしまいました。
石川 なるほど、良い勉強になりましたね。
小林 後日談があってね、フェアトレードをどうしても諦めきれない生徒がいて、冬休みに母国に帰省したついでに、現地の色んなアイテムを買ってくるわけですよ。例えば、よくある民族系のお面とかって聞いてますけど(笑)。それを学校関係のコミュニティで販売したところ、めちゃくちゃ高く売れたんです。
石川 ええ、お面が?(笑)
小林 そうそう。すると彼らは発展途上国で安価で手に入るものが日本では高値で売れることを学ぶわけです。そんな生徒たちを端から見ていて、「これぞ現実社会の縮図だ」と思いましたね。ほら、現実社会でも美しいミッションのもと生まれたはずの会社が、いつのまにかガッツリ金儲けをしてたりするじゃないですか。
石川 わかります(笑)。
小林 問題は、教職員がどこまで介入するかなんですよ。彼らが迷走しているときに、「いやいや、フェアトレードと関係ないでしょ」と助言してあげて原点回帰させるのか、あるいは「一番大事なことは何?」とだけ問いかけてそばで見守るという選択もあります。あるいは、完全に放置しとくこともできます。
石川 だって、もしかしたら、お面の先に何かあるかもしれないからね。
小林 そうね(笑)。彼らは最近、「それぞれの出身国の特産品を集めて販売することで、文化の多様性や魅力を伝える」という方向に軌道修正したようです。相談されたISAKのマーケティング・ディレクターが「じゃあ、商品を売ることを通じてそのミッションを付加価値として伝えるには、自分たちのウェブサイトでどんな商品紹介の仕方をしたらいいと思う?」などと質問を投げかけたそうです。
そういうのも含めて、教職員側がものすごい辛抱強く生徒と向き合ってくれているんです。忍耐力と生徒への信頼なくして成立しないと思います。教員としては、1年間頑張った成果を見させてあげたくて、ついお膳立てしたくなる。それをあえてしないのも大事なことなんです。
石川 りんさんのお話を聞いていると、生徒には、ある程度の壁も必要だと思えてきました。先ほどのWi-Fiの話もそうなんだけど、「世界は変えられるんだ」っていうことを子どもたちが実感できるのは、「Wi-Fiは0時まで」のルールがあったからですよね。
小林 そうなんですよね。最初から何でも許して野放し状態にしていたら、きっと空気のように、自由と自治を吸っていたと思うんです。
石川 大人をどう説得してどう自主的に行動するかは、「世界を変える方法」と一致する気がする。問題の大小があるだけで。
小林 そうなんですよね。
石川 例えば公害問題をどう解決する? となったときも、人をどう説得して自分がどう行動するかなわけだから、Wi-Fiのときとやることは同じなんだよね。規模が大きくなるだけで。そこは永遠のテーマだと思うし、ISAKの生徒さんは早くもそこにさしかかってるわけなんだね。