次代を担うチェンジメーカーを育成する日本初の全寮制インターナショナル高校ISAK(アイザック)が開校して、1年8ヶ月が経過しました。ISAKの生みの親であり代表理事を務める小林りんさんと、その半生とISAK開校までをノンフィクションで綴った『茶色のシマウマ、世界を変える』の著者石川拓治さんが、「ISAK開校後、今、何が起こっているのか」をテーマに語り合います。前半は、チェンジメーカーを目指す生徒たちの葛藤と挑戦のお話から。(構成/両角晴香 撮影/宇佐見利明)
自らアクションを起こせば
世界は変えられる!
石川 ISAKが開校されて、もうじき2年ですか。その後どうですか? りんさんが思い描いた通りの学校になりつつある?
小林 そうですね。ISAKは、将来世界で変革を起こす人材を育てる学校ですから、生徒たちの主体性を重んじています。それでいうと、生徒たちが問題意識をちゃんと持って、その問題に対して「自らアクションを起こせば世界は変えられる」という実感を手にし始めている気がしています。
石川 そう感じる理由は?
小林 最近、うちで生徒主導で生徒自治を求める運動が始まっていまして。
石川 え? ISAKで?
小林 そうなんです。「学校の定めた校則に疑問を感じる」というのが理由のようです。学校のルールを義務だと思わず、「おかしいと思ったら主張する、行動を起こす」ということを始めたんですね。
石川 へえ。
小林 他の私立校に比べたら、生徒の裁量に任せる部分が大きな学校だと思いますが、それでも疑問を感じたらすぐアクションを起こす。そういうところもまさにISAKっぽいというか、素晴らしいことだと私は思っています。
石川 生徒さんたちは、具体的に何を問題視しているの?
小林 例えば、Wi-Fiを夜の12時で切っちゃうルールについて。
石川 ……といいますと?
小林 24時間Wi-Fi環境にあるとゲームしたりYouTubeを見たりして、四六時中テレビがついている状態になってしまいます。それではよくないと、教員たちが生徒たちの健康面に配慮して「Wi-Fiは12時まで」と決めたようなんです。それに対して、「そんなのは自己責任なんだから自由にさせてよ」という思いがあるようでして……
石川 なるほどね。
小林 ただぶつぶつ文句を言うんじゃなくて、「変えてください」と直談判してくるのはすごい。着実に生徒たちはエンパワーされていると感じています。
石川 大人の言うことを素直に聞く子が「いい子」ってことになってるけど、高校生ともなると色んなことが見えてきますからね。りんさんとしては、そこはあえて主張したほうがいいと。
小林 自分で主張した結果、目上の人が決めたルールでも変えられるんだと実感することは、とても良い経験だと思います。社会もそうじゃないですか。今の女子学生は、産休・育休制度がある会社を優先的に選ぶそうですが、「あなたまだ22歳でしょう!」って言いたくなる。実際に出産するまで数年あるわけなので、それまでに産休や育休の制度を整えてもらうよう会社を変えてしまえばいいのにね。やりたいことが二の次になって、福利厚生や制度を重視するというのは、優先順位が逆だと思います。
石川 そう考えると、Wi-Fiの件で自己主張してきた生徒さんは偉いですね。
小林 はい、言い出しっぺは日本人の生徒たちだったんですけど、彼らにこう伝えました。「あなたたちは今すごく良いことを言ってるんだから絶対にあきらめないで言い続けなさい。ただし、その主張が通るか通らないかは、あなたたちの行動次第でもあるんですよ。人の心を動かすような行動を普段からとるべきです」って。
石川 ということは、その子たちはマジメというより、どちらかというとやんちゃなタイプだったんだ。
小林 そうなんです。するとね、行動がガラリと変わったんですよ。
石川 ほう。
小林 彼らが何をしたかというと、主体的に全生徒にアンケートをとって、98人中96人から回答を得たんです。アンケート内容は生徒の自治を問うもので、1~10のスケールだと、現状は6、理想は8~9だという答えが出たと報告がありました。個人の意見で終わらせず、「コミュニティ全体でこう思ってます」と明確な数字をまとめ上げて来たのは立派。彼らの行動がきっかけとなって、一大ムーブメントが起こっているんです。