アイデアがひらめくのはどんなときですか?

川村 ニコ動の最大の特徴でもありますけど、視聴者がリアルタイムでコメントを動画上に出せるようにしたのは、どうしてですか?
川上 動画の画面とコメントを重ねて表示するのは、もともとアイデアとしてあったんです。盛り上がるとコメントが増えて画面が見えなくなるのが、本末転倒で面白いなと思っていました。でも、所詮はおまけの機能で、メインにするつもりはなかった。

川村 おまけだったんだ(笑)。
川上 そう。なのに、エンジニアがプロトタイプを作ったときに、勝手にコメントが画面にしか表示しない設計にしちゃったんです。仕方がないので1週間くらい見ていたら、「こっちの方が面白い」って気分になってきたんですよね。

川村 そのエンジニアのした仕事には、ある種のフェティッシュと同時に、確信犯的なクリエイティブを感じますね。川上さんもユニークなアイデアがたくさんある方ですが、どういうときにひらめくんですか?
川上 リアルタイムで思いついたことを話しているだけなんですよね。

川村 しゃべっているとスイッチが入るということですか?
川上 ちょっと話は飛びますが、僕は小学校の頃に毎日塾に行っていて、「これでジュースでも買いなさい」とお小遣いを100円もらって、コカ・コーラを買っていました。そのときに、いつも自動販売機の前でコーラにするかファンタグレープにするかを悩んだ結果「今日飲みたいのはコーラだ」と思って「ファンタは明日飲もう」と決める。でも翌日も同じ思考プロセスを辿って結局、毎日コーラを飲むんです。

川村 そのパターンは、なんとなくわかる気がしますね。
川上 そういう話はもう一つあって、あるとき、先生の都合で同じ内容の模擬テストを2回やらされた。そうしたら1回目も2回目も、5教科の点数から答えまで全部一緒だった。つまり、ロジックで組み立てた話は、だいたい結論が同じになってしまう。

川村 だから、考えたり計算をしたりしないで、しゃべっているときの方が、面白いことを思いつくということですね。
川上 論理的な議論として非論理的なことをやるというか、非合理的に見えることをやるのが、結局合理だということじゃないですか。

川上量生(かわかみ・のぶお)
カドカワ 代表取締役社長/ドワンゴ 代表取締役会長
1968年愛媛県生まれ。91年京都大学工学部卒業。ソフトウェア会社勤務を経て、97年にパソコン通信を使ったゲーム対戦システムの開発会社としてドワンゴを設立。その後、携帯電話向けの着メロ事業で業績を伸ばし、2003年に東証マザーズ、04年に東証一部に上場。06年にユーザーによる動画投稿サイト「ニコニコ動画」(以下ニコ動)を開始。10年に角川グループ(当時)と包括的業務提携、ニコ動に角川の公式チャンネルを設置、電子書籍でも連携。一方で、11年よりスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに“見習い”として師事。14年にはKADOKAWAと経営統合。15年末時点、ニコ動の登録会員数は約5321万人(月間のユニークユーザーは約871万人、有料ユーザーは約254万人)。著書に『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書)ほか。
 川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。