では、いくらまでこの株が下がるのを待てばいいのだろうか? たとえば、当初の値段の半分である500円になったら? まだ心配だという人は、10分の1の株価、つまり100円になったらどうだろうか? それでもやっぱり怖い……と、二の足を踏んでいるうちに、株価が元の1000円に戻ったり、倍の2000円をつけたりして、手にできたはずの利益をみすみす逃すこともあるかもしれない。
ここで僕が言いたいのは、ただ1つ。価格と価格を見比べている限り、真っ当な意思決定はできないということである。
700円、500円、100円のどの時点で買うにしても、あるいは、まったく買わないにしろ、目に見えている株価だけを根拠にして判断する人は、単なるヤマ勘を頼りにしている点では「同じ穴の狢(むじな)」なのだ。
値段にダマされない人が、すべてを手に入れる
では、正しく意思決定をするためには、どんな情報が必要だろうか?
言うまでもない、C社株の本当の価値がわかればいいのだ。たとえば、「この株には本当は150円の価値しかない」とわかっていれば、1000円から700円に下落した時点でも絶対に手を出そうとは思わない。逆に、100円にまで下落したなら、迷わず購入を決められるはずである。
2008年のリーマンショック直後、世界中のほぼすべての株価が下落した。この急落に恐れをなした投資家たちは、慌てて手元の株式を売り払った。そんな中、ゴールドマン・サックス・グループが発行した優先株式と新株予約権を、無謀にも一手に引き受けた会社がある。
世界一の投資家ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ社だ。
その後、ゴールドマン・サックスの株価は回復し、バフェットは巨額の利益を手にすることになった。優先株の投資では16.4億ドル(約1800億円)、新株予約権では13億ドル(約1400億円)の利益を上げたというから驚きだ。
この賢明な投資家は、リーマンショック直後にゴールドマン・サックスの株価が本来の価値よりも低くなりすぎているとわかっていた。だからこそ、世界中の投資家がパニック売りをする中で、一人だけ「買い」の選択をし得たのだ。
僕たちはどうしても、価格という目に見えるものに惑わされてしまう。しかし、本当の意思決定は「価格と価格」を比較する世界から抜け出したところ、つまり、「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれない。
それゆえ、ファイナンス的な思考の第一歩は、価格と価値とを分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのである。