少子化に歯止めがかからない原因の1つとして、労働市場で非正社員が増加している影響が取り沙汰されている。雇用が不安定で収入が低い非正社員の増加は、若者の未婚化に拍車をかけ、さらなる少子化につながりかねないと言うのだ。しかしそれは、1つの要因に過ぎない。東京大学社会科学研究所の佐藤博樹教授は、最大の原因は「社会構造の変化」にあると説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

さとう・ひろき/社会学者。東京大学社会科学研究所 社会調査・データアーカイブ研究センター教授。専門は産業社会学。1953年生まれ。東京都出身。一橋大学卒業。雇用職業総合研究所研究員、法政大学大原社会問題研究所助教授、法政大学経営学部教授などを経て、現職。主な共著・編書に『人事管理入門(第2版)』(日本経済新聞出版社)、『男性の育児休業――社員のニーズ、会社のメリット』(中公新書)、『実証研究 日本の人材ビジネス』(日本経済新聞出版社)、『結婚の壁』(近刊、勁草書房)などがある。

――少子化に歯止めがかからない原因の1つとして、労働市場で非正社員が増加している影響が取り沙汰されている。雇用が不安定で収入が低い非正社員の増加は、若者の未婚化に拍車をかけ、さらなる少子化につながりかねないと言われている。実際、非正社員が増えている影響は大きいのだろうか?

 日本の30歳代前半層の未婚率を見ると、1970年では男性が11.6%、女性が7.2%に過ぎなかったが、2000年では男性42.9%、女性26.6%、2005年では男性47.1%、女性32.0%と急増している。

 未婚率の増加の背景には、確かに雇用機会が不安定で、収入が低水準であることが多い非正社員の増加もあろう。ただし、非正社員だからと言って、結婚が難しいとは、一概に言えない。

 日本の非正社員には、一時的に雇用される非正規と、有期ではあるものの中長期的に雇用が継続される「常用非正規」の2種類がある。今増えているのは「常用非正規」のほうで、これが全体の9割を占めている。

 経営環境の「不確実性」が増大するなか、企業は中長期的な見通しが立たないと、正社員を雇えなくなった。彼らは、いざというときに雇用調整が難しい正社員の数を、できるだけ絞り込もうとしている。そして人手が足りなくなった分を、常用型の非正社員で補っているのが現状だ。景気の良し悪しとは関係なく、これは継続的なトレンドとなっている。