楠木 こういう仕事は価値があるとか。仕事のカテゴリーで、何が次にくるのかとか。何が調子悪いのかとか。産業でも、こういうのがいけるとか……。けれど、それを考えても、結局のところ、どうなるのかはわからないですよね。いまでもね、『2030年 世界はこう変わる』とかいう本が出ますね。

宇尾野 ありますね。

楠木 『2050年の世界』とかね。そういった類の話を、自分のキャリアの問題と絡めて関心がある人が、一定数いまして。僕はそういう人はセンスがないと思う。人間に向いてないなと思うんです。

 そういう本を読むと、とんでもないことも書いてありますから。1995年に出たその手の本では、2016年には日本に総合商社は1社もないことになっていましたからね(笑)。でも、人間の先読みっていつの時代もそんなものですね。だから、僕はあくまでも、この先を考える基準が、環境ではなくやっぱり自分自身でなきゃダメだと思うんですよね。

 リクルートを辞めたのは何がきっかけだったんですか?

宇尾野 僕自身は、もともと20代で辞めることを決めて入社していたんです。リクルートでは、プロに囲まれながらビジネスマンとして経営や組織運営に関わるスキルとマインドをちゃんと学びたいっていう。ビジネススクールのような感覚で捉えていましたね。

楠木 そういうことを学べる仕事をやってみて、いろいろな選択肢がある中で、なぜいまの仕事をなさっているんですか?

「違和感がある」は、思考停止のことば

宇尾野 トライフォートというベンチャー企業に入って、自分の成長と会社の成長がリンクして、結果社会をより良くすることができるなっていうのを強く感じているんです。その中で考えることとして、その瞬間携わるビジネスも、5年先の状態はあまり考えていなくて。いまの瞬間、最も人やお金が動いているところ、課題が複雑な領域に対峙することで、そのビジネスのダイナミクスをまさに目の当たりにできると思ったんです。

 ダイナミクスに巻き込まれながらも、ちゃんと自分や組織が一歩でも前へ出ていけることを経験すれば、その次は自ら産業をつくりに行けるなと思ったんです。

楠木 実際にそういう世界でそういう仕事をやってみると、何が起きるのかなと、あくまでも自分の仕事の問題として考えていくのは、すごく僕はいいことだと思います。逆に言うと、それ以上の先読みは、超能力でもない限りできないんじゃないかなと。

 本にも書いたのですが、ほとんどのことが思うようにならないんですよね。皆さんもそうだと思います。何年間か働いていらして実感として分かると思うのですが、これだけ一人ひとりいろいろな利害があって、いろいろな人がいて、いろいろな会社があって……基本的に仕事は経済的な取引利害が絡んでいるんですよね。だから、思いどおりになるのは、本当に10個あったら、1個あるかないかで、それが普通だと思うんです。

 だから、計画どおりにいかなくて、「あっ、なんかちょっと様子が変わってきたな」「思ったとおりじゃないな」「じゃ、どうしようかな」という時に、「これから何が伸びるのかな」とか考えていてもしょうがないんですよね。結局また、「思い通りに行かないな…」の繰り返しになる。