マイナス金利の効果「徐々に浸透」は本当か

 マイナス金利の影響は徐々に浸透していると言われることが多い。確かに、短期金利は下がっているし、超長期の金利も下がっている。

 しかし、以下では、後者は、マイナス金利の影響ではなく、物価上昇率の低下見通しの影響であることを、イールドカーブ(金利の基幹構造を示す曲線)の分析を通じて示す。

 なお、ここで問題としているのは、マイナス金利が貸し出しなどに与える効果ではなく、マイナス金利が今後どのように続くと予想されるかなどについての市場の判断である。

マイナス金利が長期金利に波及する
2つのルート

 マイナス金利政策が直接操作するのは、日銀の当座預金の付利である。それは、短期市場における資金需給に影響を与え、短期金利を引き下げる。では、それが長期金利に波及するのはなぜであろうか?

 つぎの2つのルートがある。第1は、「短期借り入れ+短期借り入れの先物」と長期借り入れとの裁定である。第2は、将来の金利に関する予測である。

 これについて、以下に数値例を用いて説明しよう。なお、説明の便宜のため、用いる数値は非現実的なものとなっている。

 さらに、先物レートと将来の金利予測を同一視する。つまり予測は確実に的中するとする(このため、リスクプレミアムの問題を無視することになる。この点を考慮に入れた場合の正確な説明は、拙著『金融政策の死』(日本経済新聞出版社を参照)。

 さて、現在の1年物金利を1%、1年後の1年物の先物金利(1年後の金利の予測)を3%としよう。 現時点で1年の借り入れをし、1年後に1年間借り入れる先物契約をすれば、2年目末の元利合計は約1.04である。他方、最初から2年間借り入れる場合の金利が2%であれば、これら2つの取引の間で裁定取引が発生しない。