TPPの発効は、署名した12ヵ国全てが国内法上の手続きの完了を通報した日の60日後と定められている。署名から2年以内に国内手続きが完了しない場合は、12ヵ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める少なくとも6ヵ国以上が国内手続きを完了すれば、効力が生じる。つまり、12ヵ国のGDPの大部分を占める米国と日本の国内手続きが完了しない限り、TPPは発効しない仕組みとなっている。

 2016年4月現在、日米においてTPP協定の批准の是非をめぐる議論が重ねられている。日本においては通常国会におけるTPP関連法案の国会審議が続き、米国では大統領選における主要論点のひとつにTPPが挙がる。グローバル経営環境に大きな影響を及ぼすこの議論からは、目が離せない。

国際通商ルールで利益を上げるのに
TPPの発効を待つ必要はない

 しかしながら、企業はTPP対策よりも先に、すでに発効している既存のFTA・EPAを最大限活用することによって、当期利益を上げることを目先の目標に掲げたい。特にこれまで国際通商ルールに不慣れだった企業は、まず既存の協定の活用で本年度の利益アップを実現しなければ、将来TPPを活用する重要性の認識が社内で醸成されない。

 断言しよう。大企業であれ中小企業であれ、製造業であれ小売業やサービス業であれ、(輸出入する品目がわずかな専門事業者でない限り)ほぼ全ての企業に「FTA・EPA使い漏れ」の可能性がある。

 たとえば、日本とベトナムの間ではすでに「日ベトナムEPA」と「日アセアンEPA」の2つの協定が存在する。このどちらが自社にとって有利かは、約1万品目に分かれる関税コード(HSコード)ごとに異なる。その品目の関税削減方法(ステージング)次第では、自社に適した協定は年により変化する。

「うちの会社は昨年、FTAを完璧に使いこなしていることを確認した」とする企業も、同じFTAの活用が今年も最適なFTAを選択しているとは限らないのだ。逆に、「うちの製品の物流は昨年、商工会議所にFTAを活用できないと言われた」という企業でも、同じ仕出地・仕向地でありながら輸送ルートを変更することで、FTAの低い税率を適用できる例もある。

 先代の経営陣のアジェンダには含まれてこなかった「国際通商ルールへの対応」には、当期利益の向上のための「埋蔵金」や中長期的な競争優位獲得のための「ゲームチェンジャー」が潜んでいる。まずは経営戦略の中心にこの論点を据え、経営者自らが強いリーダーシップをもって対応にあたりたい。

(羽生田 慶介・デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー/執行役員 レギュラトリストラテジー リーダー)