戦略より、むしろカルチャーに
共感してもらうことが大切

平野 2つ目のポイントは、私も非常に重要だと思っています。米国本社のサティア・ナデラCEOは、ビジネスの話をするときも、必ず世界観の話からはじめるんです。哲学的な言い方に聞こえるかもしれませんが、「マイクロソフトがこの世界に存在している理由はどこにあるのか」「われわれの存在価値とは何か」という問いかけです。どのようなミッションをもって個々のお客様や社会全体、さらには従業員に対して、組織として貢献できるのか。その問いかけに対する答えが、会社のカルチャーを作り、自分たちが果たすべき役割、つまりこの世界におけるマイクロソフトの存在価値を定めていくのだと思います。

留目 平野さんは本の中で「ナデラCEOはITを超えたまったく別の世界を思い描き、人の生き方にまでさかのぼってマイクロソフトに期待されるサービスとは何かを考えている」とおっしゃっていました。この点について、もう少し具体的に教えていただけますか。

平野 ナデラの世界観は、昨年2015年に策定した新しい企業ミッションにもっとも端的に表現されています。それは「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.」(地球上のすべての個人とすべての組織に、より多くのことを達成できるようにする)ということです。

カルチャーが腹落ちしていないと成果は出ない、という平野社長

 マイクロソフトが創業した40年前には、コンピューティングパワーがまったく世界に広まっていませんでした。だから「Windowsをたくさん売りましょう」というビジネスモデルでよかったのです。しかし今では、さまざまなデバイスやソフトウェア、クラウド環境が世の中に普及し、その中には当然マイクロソフト以外のサービスやテクノロジーを使っている人も大勢います。そうした自社以外のものを使っている人たちも含めた、文字通り「すべての個人と組織」がより多くのことを達成するために、われわれは何をすべきなのか。その問いかけが、現在のマイクロソフトのビジネスの起点になっています。

留目 つまり、これまでの「より多くのソフトウェアを販売する」というのとは、まったく異なるビジネスモデルになっているわけですね。

平野 ええ。そのために社内でも、部下を持つマネージャークラスの社員たちに対しては、会社の戦略に関する話もしますが、それ以上に企業ミッションに基づくわが社のカルチャーについて語る時間を圧倒的に増やしています。なぜなら、カルチャーの部分が腹に落ちていないと、何もかもが上っ面になってしまい、成果も出ず、長続きしないからです。中長期的に見たとき、個々の社員がどれだけ会社のミッションやカルチャーに共感して動けているかが、組織を強くする鍵になると思います。
 レノボには、どのようなカルチャーがありますか?

留目 ご存知のとおり、今のレノボのビジネスはIBMのPC事業の買収からスタートしており、組織の成り立ちからして多様性を含んでいます。そのため、会社のカルチャーも「社内の多様性をどのようにマネジメントしていくのか」ということを柱として醸成されてきています。

社内の多様性をどのようにマネジメントしていくのか、と留目レノボ・グループ社長

 ただ、日本においてはNECのPC子会社を統合するなど会社としてまだまだ過渡期にあり、カルチャー自体もこれからどんどん変化していかなければならない途上にあります。IBMもNECも歴史ある会社で独自の文化を持っていますが、それを今のレノボにふさわしいかたちに変えていかなければならないし、あるいは逆にレノボの側もIBMやNECの影響を受けて変わらなければならない部分があります。そうした相互の関係性の中で新しいカルチャーをつくっていかなければ、と思っています。

平野 新たなカルチャーの方向性というのは?

留目 先ほどマイクロソフトが創業40年という話がありましたが、レノボが今のかたちになって昨年でちょうど10周年を迎えました。マイクロソフトに比べればまだまだ短い歳月ですが、それでも10年前と今とではビジネス環境はまったく変わってきています。
 レノボという会社はこれまで、アメリカ企業でもなく、アジアの企業でもない、真のグローバル企業になっていくために世界各国から集まった多様な社員がフェアでフラットに働ける組織づくりに力を注いできました。そうした組織づくりは現在までにある程度の成果が現れており、その組織がベースとなって先進国でも新興国でもビジネスを伸ばせるようになってきました。
では、未来のレノボが進むべき道はどこにあるのかといえば、やはり社外との関係強化だと思うのです。

平野 なるほど、社外との連携は当社にとっても課題です。