筆者の長年の友人であるフィナンシャルタイムズ米国版の編集長ジリアン・テッドが、珍しく「決済インフラ」の記事を編集長自ら書いた。これはそれだけ重要な問題であるからだ。

 今年2月、バングラデシュ中央銀行がハッキングされ、国際金融ネットワーク「スイフト(SWIFT)」のアクセスコードなどの情報が盗まれた。犯人はバングラデシュ中銀になりすまし、アメリカの中央銀行FRB(Federal Reserve Bank)に保有するバングラデシュ中銀の口座から1億100万ドル(約110億円)を強奪。実はこれ、「史上最大級の銀行泥棒」である。

 国際業務を行うほとんどの銀行はスイフトを使用しているだけに、この事件は世界中の銀行に衝撃を与えた。同じやり方で他の銀行が狙われる可能性が高いからだ。これは由々しき事態である。スイフトは最大で10件、同様の侵入事件に遭っていると報道されている。

 銀行泥棒といえば、映画にもなったボニー&クライドやジョン・デリンジャーなどの強盗犯が有名だ。それとの違いは、今回は“顔の見えない犯行”で、ネット化し顔が見えなくなっている現代社会を象徴した犯罪ともいえる。

巨額窃盗事件の舞台となった
「スイフト」とは何か

 スイフトとは、決済インフラで金融機関専用のネットワークのことだ。ある意味、裏方のインフラであり、ほとんどの読者はご存じないのではないか。SWIFTとは、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略称で、以前は「国際銀行間通信協会」と呼んでいた、1973年にベルギーで設立された共同組合(Société Coopérativ)である。その後77年に稼働を開始した。

 1960年後半からユーロダラー市場が拡大し、73年から国際通貨制度に変動相場制が導入されるなど、国際金融取引が拡大した。そのためテレックス(TELEX)やマニュアル(人手)の事務処理が限界、つまり紙による事務処理の限界(ペーパークライシス)に達した。その様な状況に対応するため、スイフトが設立された。

 そもそもはテレックスを高度化したE-Mailの様なもので、自動化を目的としている。そのイメージは、エクセルの様なマス目状。金融機関名や金額などを決められたマスに入れていくため、自動処理しやすくなっている。また、人手による間違いも防止しようという目的もある。

 導入している国は200としており、世界中をカバーしている。参加機関は1万を超え、日本では250もの主たる銀行や金融機関が使用している。