仮に、タクシーに対する需要と料金が変わらないとして、自動運転技術を前提とした新しい生産関数f(N,K)の下では何が起こるだろうか。同じだけのタクシーサービス(運搬料、運搬距離等)の提供に要するN(労働力)は激減し、K(資本)は自動運転技術を搭載する分自動車が高くなるとすればより大きくなるかもしれないが、タクシー会社にとってのNとKの調達コストは、ある程度の期間で計算するとして、大幅に下がっているはずだ(そうでなければ、新技術に移行する意味が無い)。

 ここで起こるのは、「N」の大宗を占める既存のタクシードライバーの失業であり、そこで浮いたコストがもたらす利潤を、タクシー会社と「K」の供給者が分け合う(同時に、取り合う)ことだ。

 もちろん、経済学部の教室で先生がしばしば安易に仮定するように、タクシー業界や自動運転技術を提供する業界(IT業界、自動車メーカー等)が「完全競争」の状況にあれば、新技術による利潤は速やかにタクシー料金の下落を通じて、消費者に還元される。

 しかし、起業家側の本音がよく表れているピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』(大変優れたビジネス書である)を読むと明らかなように、ビジネス界、とりわけIT業界は、独占こそが大好きで、競争は大嫌いだ。グーグルも、アップルも、マイクロソフトも、無名の会社も皆同じである。気がつくと、アメリカで大きな時価総額を誇るビジネスの多くが、独占的な地位を持った独占ないし寡占企業だ。

 自動運転に限らず、新技術に伴う利益が競争による製品・サービスの価格低下で「完全競争レベル」まで下がるには、かなりの時間を要するはずだ。この間、例えば自動運転に必要な情報やシステムを提供する会社、自動運転技術の開発者(社)、自動運転対応車の生産者、自動運転技術を取り入れたタクシー会社などが、それぞれのビジネスの稀少性と交渉力の強弱に応じて、莫大な利益を上げる可能性がある。ついでに予想しておくと、自動車メーカーは社会が採用する自動運転システムに対応する車を作るだけなので、自動運転によって独占的な地位と利潤を得るのは、自動車メーカーではなくて、自動運転システムの提供者であるように思える。

職業の流行り・廃り
余剰となった労働者の行き先は?

 冒頭のよくある質問に対する答えを、もう少し具体的に考えてみよう。

 新技術の近くには利潤が集まりやすいのだから、AIそのものの開発者、AI技術の提供に従事する技術者のような職種は、人材の需要もあるし、報酬も高くなると考える事がひとまずは素直な推測だ。