昨年度の法改正に伴い、病気予防や健康づくりの自助努力をした人に「インセンティブ」を与える健保組合や自治体が増えている。

 この運用開始に伴い、厚生労働省は、インセンティブを取り入れる際のガイドラインを今年5月に発表。加入者に与える特典については、「公平性の観点からも過度にならないように留意が必要」という注意がついた。

 旗振りしてきた国が、ここにきて抑制的なことを言い出したため、積極的にインセンティブを導入してきた健康保険組合や自治体のなかには、ガイドラインに困惑しているところもあるようだ。

 インセンティブについては、昨年7月にも本コラムで2回にわたって紹介しているが、改めて制度をおさらいし、その危険性を考えてみたい。

経済界の旗振りで始まった
健康保険のインセンティブ

 健康保険のインセンティブが表舞台に立ったのは、2013年12月に成立した「社会保障制度改革プログラム法」だ。この法律で、健康増進のための自助努力を支援する環境整備をすることが示され、その後、国の「日本再興戦略」の改訂2014、改訂2015で、「個人・保険者・経営者等に対する健康・予防インセンティブの付与」が盛り込まれるようになる。

 この間、厚生労働省の審議会では、健康保険にインセンティブを導入すると「受診抑制を招く」「理論的には、病気の人から高い保険料をとることになる」など、慎重な意見も出されていた。

 ところが、経済財政諮問会議では、企業経営者やビジネス界の意向を受けた学識経験者などの民間議員が、「インセンティブを強化して、歳出削減すべき」と主張。こうした経済界のプレッシャーもあり、2015年5月の「医療保険制度改革法」で、保険者に健康増進事業を行うことが義務付けられることになった。

 さて、この健康保険のインセンティブ。端的にいってしまえば、医療費を使わない健康な人を優遇しようという制度だ。

「予防すれば、病気になる人が減って、国の医療費が削減できる」という仮説のもと、ポイントや商品を与えたり、保険料を優遇したりして、積極的に病気の予防や健康づくりに取り組む国民や健康保険組合を増やすのが目的だ。