ホンハイ出資案に反旗を翻したのはわずか2人だけ
急激な潮目の変化に慌てたのは、シャープの経営陣だ。
社長の高橋興三はそれまで革新機構を推していたが、銀行団がホンハイにすり寄る様子を見て、「言動がブレ始めた」とシャープのある幹部は話す。
資産査定も完了しないうちに、支援金額を面白いように上下させる郭に対し、高橋をはじめ経営陣は、3000億円規模に上る「隠れ債務」の存在を知らせるタイミングを完全に逸した。
2月下旬。社外取締役の一人が「こんな債務リストを今更送って大丈夫なのか」と問いただしたとき、郭との交渉に当たる役員の一人は「問題ありません」と言い切ってみせた。
2月24日朝。スポンサー決議の前日に、財務アドバイザーのみずほ証券を通じて、債務リストをホンハイ側に送って以後は、もはや郭の言いなりだった。
3月中旬に銀行の審査担当役員を引き連れて、高橋は台湾のホンハイ本社に乗り込んだが、突き付けられたのは出資の2000億円減額。「いくら何でも」と1000億円の減額まで押し戻したものの、太陽光事業などの整理や、出資しない場合は液晶事業だけを買い取る権利を与えるという“不平等条約”を次々とのまされた。
その後、大阪の本社に高橋が戻ると、あまりに惨めな契約内容の改悪ぶりに、社内は大騒ぎになったが、時すでに遅し。革新機構の支援撤退でてんびんにかける相手はもはやおらず、高橋たちはホンハイとの契約準備を進めるしかなかった。
3月30日。ホンハイとの契約の修正決議に反対したのは、高橋の盟友だった会長の水嶋繁光と経産省出身の半田力の2人だけ。シャープの命運を決める決議だったにもかかわらず、そこに熱気はみじんもなく、あるのは顔をひきつらせながら会議室を後にする取締役たちの姿だけだった。(敬称略)