さらに、石川県白山市に新設した6世代の工場についても、5月に予定していた稼働の延期に踏み切った。

 この白山工場には1700億円を投資しており、その資金の大半はアップルが拠出している。

 そのため、新型iPhoneの生産に向けて着々と準備を進めていたが、今度はアップルのiPhone減産が直撃する格好になってしまったわけだ。

 折しも、アップルは17年発売モデルから、iPhoneに有機ELパネルを採用するとの情報が業界を駆け巡っていた。

 アップルがすでに、量産技術を持つ韓国サムスンからサンプル品の出荷を受ける中で、JDIの有機ELはまだ試作の段階。製造に必要な真空蒸着装置についても、最大手のキヤノントッキが「サムスンに供給する分で手いっぱいで、導入には2年待ち」(関係者)というのが実情だ。

 JDIは19年ごろから量産を始めるとみられるが、ライバルの韓国勢からは完全に周回遅れで、価格競争力を持つのは難しいとの見方もある。

 実は有機ELへの対応をめぐっては、JDIが後手に回っていることが、「規制の面で好都合な部分もあった」とある政府関係者は明かす。

 シャープと事業統合することになった場合には、有機ELでシェアを持っていないことが、「各国の独占禁止法当局を説得する一つの理由になり得た」(同)のだという。

 だがその目算は鴻海精密工業(ホンハイ)のシャープ買収で外れた。中国での受注減、アップルの減産、そしてシャープとの事業統合の立ち消えという“三重苦”に見舞われたJDIは、16年3月期に318億円の最終赤字を計上しており、黒字転換を見通しにくい厳しい状況にある。

スマホ用でも幕が開いた苛烈な消耗戦

 しかし本間会長は「有機ELの量産をはじめ、今後の収益についても全く悲観はしていない」と、強気の姿勢を崩さない。

 民間の予測では、スマホ市場で有機ELパネル需要は今後拡大するものの、サムスンの「自家消費」分を除くと、20年時点でも液晶を含めたスマホ用パネル全体の4分の1にも満たない。将来液晶に取って代わるほどのボリュームがあるわけではなく「一時的なファッション(流行)の側面もある」(本間会長)と読む。

 ディスプレイを制御する回路基板(バックプレーン)についても、新型の開発を進めており、技術で先行逃げ切りを狙う。

「アドバンスドLTPS」と呼ぶ技術で、同社が得意とするLTPS(低温ポリシリコン)と、酸化物半導体を組み合わせたものだ。アップルが「LTPO」として開発をにらんでいる技術でもある(下図参照)。

 液晶だけでなく、有機ELにも対応しており、従来に比べより高精細で消費電力の少ないディスプレイが可能になるという。

 一方でJDIは、「日の丸有機EL」としてパネル開発を進める、JOLEDにも出資している。

 同社が開発しているのは、サムスンなどが採用している蒸着方式ではなく、製造コストが格段に安いインクジェットによる印刷方式で製造する有機ELだ。開発の加速に向けて、JDIがJOLEDとの統合に踏み切るのは時間の問題だろう。

 テレビ用液晶に続きスマホ用においても、苛烈な消耗戦が始まる中、JDIはいつまで技術優位性を保ち、安定的に収益を確保できるのか。激変するディスプレイ市場を展望する。