三菱製紙と北越紀州製紙、大王製紙が第三極形成に向けた再編をめぐり、大もめしていた製紙業界。結局、どの統合も見通せず、ゲームチェンジのゴングが鳴った。三菱が業界首位の王子ホールディングスにラブコールを送っている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

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「王子グループとのアライアンス強化」。5月30日に三菱製紙が出した中期経営計画に、基本方針としてはっきりと書かれた文字。それは暗に、製紙業界で再編のゲームチェンジが起きたことを意味していた。

 製紙業界はこの1年半、王子ホールディングス、日本製紙の2強に次ぐ第三極形成に向けた再編をめぐり、大もめしている。各社の複雑を極めた関係が表面化したのは、2015年4月。北越紀州製紙と三菱製紙の販売子会社同士の合併協議が、破談となったことがきっかけだった。

 この合併、岸本晢夫・北越社長にしてみれば、市場が縮小し続ける製紙業界の先行きを案じる三菱グループの関係者が、「三菱製紙を何とか救ってやってくれませんか」と内々に、しかし事有るごとに訴えてくるから、重い腰を上げて打った一手だった。

 ところが、この2社の“婚約”に大王製紙が横恋慕。三菱関係者によると、北越は「本体統合まで本当に踏み切ってくれるか分からなかった」が、大王との間には手っ取り早い本体同士の“結婚”の可能性がチラついていた。そのため、心が揺れ動いた三菱が14年12月に北越との婚約破棄を申し出た、といわれている。

 15年に入り、北越は三菱との本体同士の統合案まで出したとされるが、子会社の合併話は再び議論の俎上に載せられることなく、白紙に戻ってしまった。むろん、北越は激怒している。

 それでも今年6月、中瀬一夫・三菱製紙販売前社長を監査役として招いたあたり、北越の三菱との統合の意思はゼロではないもようだ。中瀬氏も、「北越と三菱の仲立ちをしたいと語っている」(業界関係者)という。ただ、北越は海外事業の好調などで第三極の形成に対する興味が薄れており、ちょっとやそっとの条件では話し合いの席にも着かないとされている。

 では、大王と三菱との統合はどうなったのか。北越との関係に亀裂が入ったとしても、大王と結婚できたなら、三菱としては「万事オーケー」だったろう。が、事はそんなに単純ではなかった。

 北越は、大王本体と創業家のトラブルを仲裁する形で12年に大王株を大量取得しており、今もその21.65%を保有する大王の筆頭株主なのである。持ち分法適用会社の大王と、自分を袖にした三菱の結婚を許すはずもない。

「うまくいくと思ったんですかね?」「大王は、北越と三菱の接近を邪魔するためだけに動いたんじゃないですか」。競合他社がこう訝しむほど、大王と三菱の縁談はどだい無理な話だった。

 何より、北越が大王の筆頭株主になった当初は第三極の組み合わせとして最有力だったこの2社の関係が、いまやこじれにこじれている。昨年12月、大王の転換社債発行による株価下落で損失を被ったとし、北越が佐光正義社長ら、大王の経営陣を提訴。約88億円の損害賠償を請求する血みどろのいがみ合いが勃発しているのだ。

 来年は北越と大王の出資維持契約が切れるタイミング。大王の関心はこの1年、自社より規模の小さい北越の出資比率を下げることに向けられるとみられ、「三菱との統合協議どころではないだろう」(別の業界関係者)。

 結局、三菱は北越と大王の間で前にも後ろにも進めなくなり、第三極形成に向けた再編は、ほぼゲームオーバーとなった。