「出る杭」が打たれる理由は、脳科学的に説明できる
中野 それは、脳科学的にも面白い論点なんです。オキシトシンというホルモン物質があります。愛着や信頼感を形成するので「愛情ホルモン」とか「幸せホルモン」なんて呼ばれたりします。そんなに素晴らしい物質だったら際限なくたくさん出てくればいいんですけど、人間の体はそうはなっていないんです。というのは、オキシトシンにはいい効果ばかりではなく、悪い効果があるからなんですね。
林 悪い効果というのは?
中野 1つは「排他的感情を高める」というものです。自分のチームや、自分の味方になってくれる人に高い愛着や信頼感を持つ半面、チーム以外の人のことを低く見たり、必要以上に敵対視したりするんです。もう1つは「妬み感情を高める」というものですね。目立つ人の足を引っ張ろうとする感情を抱かせるんです。いわば、オキシトシンは“諸刃の剣”なんです。
林 なるほど。
中野 そして怖いのが、最初は「味方」として相手に認定されていたのに、いきなり「敵」になってしまう場合があるということなんです。はじめのうちは、オキシトシンのいい効果がお互いに発揮されて、愛着や信頼感がどんどん形成されていたのに、「この人は味方じゃないんだ」という心理的なイベントが起きてしまうと、排他的な感情や妬みといった、オキシトシンの悪い効果が出てきてしまうんです。
すると、一気に「この人の脚を引っ張りたい」というような攻撃性が高まるわけです。仲間だと思っていたのに、突然敵対視されだしたなと感じたら、それはどこかのタイミングで相手に「裏切られた感」を与えてしまったのでしょうね。オキシトシンの悪い効果が大きくなると、「何を言っても敵」の状態になってしまいます。
林 それは恐ろしいですね……。
中野 「味方⇒敵」の急激な変化が起きやすいのが夫婦間の場合なのですが、会社のなかでもそういうことが起こりうるんです。だから、はじめのうちに仲間意識を醸成しすぎると、何か「裏切られた感」を与えてしまうイベントが起きたときの反動が大きいということにもなります。心理学的に言えば、「風通しのいい組織」をつくるためには、「仲間意識を適度な薄さに抑える」ということが大事になってくると言えそうです。
林 おもしろいですね。オキシトシンが大量に分泌されるような関係性にあるコミュニティにおいてこそ、「出る杭」は「敵」とみなされやすいということなんですね。