「足を引っ張る人」から、どうやって身を守るか?
中野 また、オキシトシンの悪い効果が発揮されやすい、つまり妬みが起こりやすい状態というのもあるんです。それは「類似性」と「獲得可能性」が高いときです。
林 「類似性」と「獲得可能性」ですか?
中野 はい。「類似性」は、年齢・学歴・目標が近かったり、性別が一緒だったりなど、自分と似た状態にあるかどうかということです。「獲得可能性」は、頑張ればそのポジションにいけるかどうかです。普通の社会人が「宇宙飛行士になりました」という人にあまり嫉妬しないのは、そもそも自分とは別次元の話で、獲得可能性が低いからですね。
林 なるほど。すると、同じ会社の中で足の引っ張り合いが起こりやすいのも、残念ながら納得がいく気がします。日本では、同じ会社にいる人たちはほぼ同じ属性の集まりですよね。学歴も同じくらいですし、新卒で入社すれば年齢も同じくらい。一人ひとりの個性は違うはずなのに、プロフィールだけを見ると類似性が高くて、出世競争という意味では誰にでもチャンスがあり、獲得可能性も高い。だから「出る杭」に対する妬みが強くなる。人間のメカニズムからも、そう言えるわけですね。
中野 ええ。特に日本人は、セロトニントランスポーター(たんぱく質の一種。「幸せホルモン」とも呼ばれているセロトニンを脳内で再利用する役割を担う)が少ないタイプがたくさんいます。
セロトニントランスポーターが少ない人は、不安要因を検出するのが得意なんです。これが組織の中では「『出る杭』のような人がいると組織が壊れちゃうんじゃないか」という不安を感じる形で発揮されます。組織の中で1人だけ目立つ人がいたり、1人だけ特別扱いされているとみなされたりすると、余計にその人の足を引っ張ろうとしてしまうんですね。
林 そうなると、足を引っ張られないためのセルフ・ブランディングというのも結構大事ですよね。徐々に「出る杭」になっていくというか。
たとえば、何もしなさそうな人が突然何かするとみんなびっくりする。場合によっては「裏切られた感」をもたせてしまうかもしれません。だけど、いつも何かをしでかしている人が、その延長で、もうちょっと大きなことをしでかすというのは、周りからすると「また、あいつか?しょうがないな」と、心の整理がしやすいかもしれないですよね?
中野 たしかに(笑)。「そろそろ、何かしでかしてくれないかな?」って、むしろ期待されてる人もいますよね?そうなったら、強いかも(笑)。
林 ええ。『ゼロイチ』にも書いたんですけど、僕、トヨタに勤めていたときに、古いシステムを新しいものに置き換えようとして、重要なデータを全部消してしまったことがあるんです。当時はそんな失敗をいくつもしていて。そんなときに、仕事のできる先輩から「お前は宇宙人だな」って言われたんですよね。要するに呆れられたということなんですが、ある意味では僕のセルフ・ブランディングの第一歩だったのかもしれません。
中野 それはよかったのかもしれないですね。「宇宙人」というフレーズは素敵ですね。「宇宙人」と認識されれば、多少のことをしでかしても「裏切り感」はもたれない。ある意味、「宇宙人だから仕方ない」という免罪符が与えられたようなものですもんね(笑)。
林 本当に、「宇宙人」と言ってくださった方に感謝です。宇宙人として開き直ってしまうことで、「出る杭」としてやりやすくなりましたね。
中野 そして、ゼロイチのキャリアが拓かれていったわけですから、いいポジションニングができたということかもしれませんね。
(つづく)