東北自動車道仙台南インターチェンジを下りて、10分ほど車で走ると名取川沿いに縦に伸びる秋保温泉にたどりつく。JR仙台駅や山形駅からも車で30~40分ほどの場所だ。
人口4700人の小さな温泉町に、1日平均5000個、土日休日は1万個以上、お彼岸になると2万個もの「おはぎ」を売る店がある。その店の名は「主婦の店 さいち」(社名は株式会社佐市)。和菓子屋さんではない。外見は田舎町にあるごく普通の小さなスーパーだ。
「主婦の店 さいち」、見た目はどの田舎町にもあるフツーのスーパー。
実は、さいちには、ヨークベニマルやヤオコーを始め、大手スーパーやコンビニチェーンの担当者が視察・研修に訪れる。その数はこれまでに600社超。お目当ては、さいちの惣菜部門だ。さいちのお店は、秋保町のたった1店舗のみ。年商6億円のうち、50%を惣菜部門(おはぎ+300種超のお惣菜)が占める。平均的なスーパーの惣菜部門は全売上の10%にも満たないので、この数字は驚異的だ。
「どうして、そんなに売れるのか?」。全国からその秘密を学びにひっきりなしにやってくる。
さいちの躍進は、佐藤啓二社長(75)と奥様の澄子専務(75)が二人三脚でつくり上げた。澄子専務が朝1時半に厨房に入り、惣菜部門を現場で指揮する。9月17日には、初めての著書『売れ続ける理由~一回のお客を一生の顧客にする非常識な経営法~』(ダイヤモンド社刊)が発売された。
さいちの創業はいまから約140年前。おもに温泉旅館向けに、日用雑貨や食品などを扱う小さな店を営んでいたが、経営難に陥り、1979年に「主婦の店 さいち」として、いわば再スタートを切った。惣菜を始めたのは、開店から1年ほど経ってからだ。