>>(上)より続く

 もともと純一さんは夫名義の財産は夫のもの、妻名義の財産は妻のものという具合に、あえて財産分与(離婚時に財産を分け合う)を行わないことを望んでいました。私は4つの切り口を用意し、純一さんに授けました。

 まず1つ目ですが「財産形成への貢献度」です。純一さんは妻に対して「貢献」という目に見えない部分に焦点を当てて、こんなふうに投げかけたのです。

「僕の貯金に久美子がどのくらい貢献したのか、僕には良く分からないよ。でも、それは逆だって同じことでしょ。久美子の貯金に僕がどのくらい貢献したのか、僕だって何とも言えないよ。(妻には貯金がないことを知りつつも、あえて指摘せずに)久美子は貢献していて、僕は貢献していないというのは、おかしいじゃないか?」と。

 次に2つ目ですが「金銭感覚の違い」です。まだ妻の浪費癖が明らかになったわけではないので、「仮に」という前提で、純一さんはこうやって夫婦間の違いに言及したのです。「夫婦の金銭感覚がぴったり一緒なんてことはあり得ないでしょ?僕は年収の1割以上、貯蓄に回しているけれど、久美子に同じことを押し付けるつもりもないし、お互い干渉しない約束で今までやってきたじゃないか」と。

 そして3つ目ですが「財産の不開示」です。夫婦が共働きの場合、夫が妻の、妻は夫の財産の全容を把握しないケースが大半で、純一さん夫婦も例外ではありません。純一さんはこんなふうに妻の「痛いところ」を突こうとしたのです。

「離婚するからといって、今まで知られないようにしてきた財産の中身を明らかにしなければならないのは、苦痛以外の何物でもないでしょ?僕だけじゃなく、久美子だって同じじゃないかな。『なぜ、これしか残っていないの?』『他に隠しているのでは?』『家を出て行く前に使ってしまったに違いない!』僕は久美子にそんなことを言われたくないし、僕だって言いたくはないよ」

お互いに詮索しないことで
円満離婚へ

 そうやって純一さんは「一度、疑い始めると収拾がつかなくなり、出口は見えなくなること」を強調して、むしろ財産分与「しないこと」が妻のためなのだと説き伏せようとしたのです。なぜなら、妻は自分だけ金遣いが荒く、貯金しておらず、お金がないという秘密を隠し通した上で、しかも早く解決し、苦痛から解放されるのだから。

 最後に4つ目ですが「お金の使い道」です。妻にとっての秘密事項は「現時点の残高」だけでなく、結婚から別居までの間、何にいくら使ったのか……具体的な使途も同じくらい隠し通したいはず。なぜなら、1つ1つの使い道が本当に必要不可欠なのか、ぜいたくではないか、もっと節約できたのはないかなどと、今さら夫に指摘されるのは耐え難い苦痛に違いありません。例えば、ミシュランで星を獲得した高級店で優雅にランチを満喫した、豪華客船に乗って伊勢神宮で停泊する憧れのプランに申し込んだ、1年分のエステのチケットを買い込んだ、などとは口が裂けても言えないでしょう。