大事なことは設問の訓練です。「漫然とした改善策を集めるための設問」をしていてはいけません。「解決策につながる設問」が常にできるように意識し、訓練し、心がけておくことが大切です。

 これができるようになれば、本質を突いた思考ができるようになります。結果、本質から外れた不毛なことに惑わされなくなります。

 仮に失敗しても、それを次につなげることで徒労に終わることが避けられます。もちろん、うまくいったら、その経験を再現性のあるノウハウとして、蓄積することができるようになります。

ビジネスや日常で活用するには?

 このように戦略思考は、論理的に物を考えるうえで不可欠な思考法です。ビジネスの現場ではミーティングや会議の発言はもちろん、自分の頭のなかで考えるうえでも有効で。とはいっても、「自分には関係ない」という方もいるかもしれません。そもそも、「職場で戦略を策定したり、会議で発言したりする立場にない」という方は、そう感じるかもしれません。

 しかし、この戦略思考は日常生活でも使えます。たとえば、前出の旅行の設問はその例です。さらに『企業参謀』には、理髪店の例が出てきます。たとえば髪を切るとして、洗髪やヒゲ剃りをしてくれる普通の床屋に4000円前後払って行くべきか、いわゆる1000円床屋で十分かで悩んだとします。これに対して「1000円床屋で十分だ」「いやいや、髪を洗ってくれたり、ヒゲをそってくれたりしてくれるのだから、むしろ安い」と思案していても、結論は出ません。

 しかし、散髪の本質が「髪を切りそろえること」だと決めたらどうでしょう。そのうえで理髪店の経過時間を調べます。すると、普通の床屋では散髪以外に「ヒゲを剃る」「洗髪する」「髪を整える」など「髪を切りそろえる」という本質以外の周辺部分に、実に70%を費やされていることがわかったとします。

 考えてみれば、これらは家で、しかも自分でできることばかりです。さらに風呂に入れば、その効果は消えてしまいます。

 というわけで、普通の理髪店でも「髪を切りそろえる」という本質には、たったの30%しか使われていないことがわかります。計算すると普通の床屋で散髪に要する費用は1200円になります。「普通の床屋は高い」という結論に説得力が生まれます。単に「1000円床屋で十分だ」とか「いや、むしろ安い」と言うより、ずっと説得力があると思います。

 日常生活でも、こんなふうに考えられれば「なんとなく」は少なくなり、決断がしやすくなります。その結果、思考の無駄がなくなるはずです。何より、相手に伝わりやすく、さらに説得しやすくなります。

 以上、本質を突いた論理的な解決策を得るうえで、戦略思考は、きわめて有効だということがおわかりいただけたと思います。ビジネスパーソンなら、まず身につけておきたい思考のスキルだと思います。

参考文献/『企業参謀』大前研一著(プレジデント社)