心変わりの2つの理由

 理由は2つある。1つ目は、08年のビール業界が、第三のビールや韓国製ビールなどの登場で、価格競争期にあったことだ。

 当時は、「いかに低価格な商品を出せるかが競争軸」(キリン幹部)で、1本200円以上もするビールは逆風に晒されていた。大手でさえビールの新商品発売を控えていた中で、「知名度の低いクラフトビールを普及させることは、今とは比べものにならないほど厳しかった」(同)。

 だが、5年で市場環境はガラリと変わった。「消費の二極化」が鮮明になり、小売店にはサントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」を筆頭に、高価格帯のプレミアムビールや海外ビールなどがズラリと並ぶようになった。

 加えて13年末~14年頃はキリンがシェアを落とし“独り負け”だった時期でもある。キリンはシェアが下落傾向にあった「キリンラガー」を捨てきれず、「キリン=古い」というイメージを刷新できずにいた。そんな状況下のキリンにとって、新規性の高いクラフトビールへの挑戦は、イメージ戦略の上でも必要な存在だった。

 もっとも、実際に共同で製造を行っていくとなると、当然、投資に見合うだけのリターンが求められる。つまり、規模が求められるのだ。

 08年のクラフトビールは一部のマニアの間で親しまれていた程度で、ブームと呼ぶにはほど遠い環境だった。本誌の取材によると、08年のヤッホーの年間製造量は1300キロリットル前後。年間約65万キロリットルを出荷するキリンからすれば誤差の範囲内といえる規模にすぎない(ヤッホーは課税出荷数量を公表していないため、製造量の数値)。

 そもそも、大手とクラフトビールメーカーでは製造設備に違いがある。大手は通常100~150キロリットル程度の仕込み釜で製造するのに対し、クラフトは数キロリットル程度。「クラフトビールメーカーで最も大きい」(井手社長)というヤッホーでさえ10キロリットルで、両社の感覚の差は歴然である。

 しかし、ヤッホーの躍進により事情は変わる。08年以降は毎年成長を続け、11年からは年率115%以上の伸びを実現している。提携を申し込んだ13年の製造量は3000キロリットルを超えていた。さらに15年は約6000キロリットルにまで伸長している。