反芻思考が脳を疲労させる

イェールの研究室をあとにし、下宿に帰った私は激動の1日を振り返っていた。朝から〈モーメント〉のスタッフ全員にボイコットされたのだ。考えてみれば、無理もない話だった。オーナーの姪だとかいう日本人の女がいきなりやってきて、散々騒いで職場をかき乱した。しまいには、一方的にスタッフを公共の面前で怒鳴り散らす始末……彼らにとってはそれ以上でも以下でもない。

ベッドに入った私は、改めて〈モーメント〉のスタッフたちの顔を思い浮かべてみた。伯父を除くと、スタッフは5人だ。

キッチン担当の調理師は2人。ヒスパニック系アメリカ人のカルロス。陽気そうな20代後半で、小太りの体格に口髭をたたえている。

もう1人はクリスといい、アジア系が混じった白人男性だ。頭髪は短く、メガネをかけた神経質そうな顔をしている。

ホールには3人が出ている。1人はトモミという30代の小柄な日本人女性。言われたことはこなす、おとなしいタイプだ。あらゆるしわ寄せが彼女のところに集まるせいか、スタッフの中ではいちばん疲れているように見える。

もう1人は主にレジを担当するダイアナ。40代前半の白人女性だ。きつい化粧に仏頂面で、おまけに喫煙者。私が面罵したのはほかならぬ彼女だ。

最後の1人は男性のウェイターだというが、しばらく休暇中でいまはいないという。

「(まずはダイアナに謝らなきゃ……)」

私に怒鳴りつけられたときの彼女の表情が脳裏に浮かぶ。

「(でも、何て言えばいいんだろう……)」
「(もしダメだったら?)」
「(どうして許してもらえるなんて思ってるのかしら?)」
「(だとしたら、マインドフルネスなんて、学ぶだけ無駄なんじゃ?)」
「(でも、ひとまずはお金を稼がなきゃ……)」
「(帰るわけにはいかないし……)」
「(まずは謝ることが先決よ)」
「(でもどうやって?)」

ベッドに横たわって暗闇の中で目をつむると、頭の中で思考の堂々巡りがはじまった。無意味だとわかっているのに、ループから抜け出せない。身体も心もクタクタなはずなのに……。

そう、ヨーダの講義によれば、何度も同じことを考えてしまう「反芻思考(rumination)」こそが、脳を疲労させるのだ。

(次回に続く)