集中力を高め、
セルフコントロールを手に入れる

マインドフルネスは脳の「働き具合」だけでなく、「つくり」を変えてしまう。つまりこれは、一時的に脳の疲れをとる対症療法ではなく、疲れに対する予防にもなるということだ。

ある研究では、ストレスホルモンであるコルチゾールが出にくい状態が観察されていた。マインドフルネスによって、ストレスに強い脳をつくれる可能性が高いということだ。

「ブリューアーはニューロフィードバックを取り入れたりもしておるぞ。自分の脳を自分で整え、成長させる時代はすぐそこじゃ」

何ということだろう。ニューロフィードバックというのは、脳内の活動を被験者自身にリアルタイムでフィードバックする方法のことだ。瞑想によって後帯状皮質などの活動が低下している様子を、被験者(瞑想者)本人に可視化して見せたわけである。これを繰り返していれば、被験者は自分の脳をトレーニングし、理想的な状態にコントロールできるようになるだろう。

「ふぉふぉふぉ、どうじゃ、驚いたかな?そのほかに期待できそうな効果として、こんなものも言われておる[*5]」

・集中力の向上——1つのことに意識を向け続けることができるようになる
・感情調整力の向上——ストレスなどに対して感情的な反応をしなくなる
・自己認識への変化——自己へのとらわれの減少、自己コントロール力の向上
・免疫機能の改善——ウイルス感染などに対する耐性、風邪を引きづらい

*5 Tang, Yi-Yuan, Britta K. Hölzel, and Michael I. Posner. “The neuroscience of mindfulness meditation.” Nature Reviews Neuroscience 16.4 (2015): 213-225.

ヨーダによれば、研究のクオリティにはまだ課題があるというが、かなり射程が広い研究分野なのは否定できなさそうだ。先端脳科学研究室で行われている研究と比べても、遜色ないものも数多くある。

「(ひょっとすると本当に『最高の休息法』なのかも……)」

私の中で何かが変わりはじめていた。それは認めないわけにはいかなそうだ。

そのあとも、ヨーダの怒涛のレクチャーはとまらなかった。まるでそれまで地下の研究室で溜め込んでいたエネルギーを爆発させるかのように、膨大な研究成果や彼なりの仮説を私にぶつけた。

ふと時計を見ると、夜の10時を回っている。この個人レクチャーがはじまって8時間近くが経過していた。思えば昼から何も食べていない。前日までの睡眠不足も手伝って、さすがに頭がぼーっとしてきた。

「ふむ、今日はこれくらいにしておくか」

私の頭の中を見透かしたようなタイミングでヨーダがつぶやいた。この老人は、研究以外にはまったく関心がないようでいて、じつは周りの変化を本当によく見ている。

「まだ十分とは言えんが、ナツの差し当たっての目的は〈モーメント〉の立て直しじゃからな。『お勉強』はこれくらいでいいじゃろ。ところでナツ、〈モーメント〉のみんなには何と言って謝るつもりなんじゃ?」

「じつは明日は定休日なんです。つまり、もう1日だけ考える猶予が残されてるってわけで……。その作戦会議も含めて、先生、明日も……いいですか?」

私は遠慮がちに聞いた。いつぞやとはすっかり立場が逆転している。

「ふぉふぉふぉ、スーパー!!」