脳が回復する5つの習慣
「最後に、疲労感の改善に欠かせないのは、やっぱり運動よ。うつ病の患者さんは疲労感を伴いやすいんだけど、適度に運動をすることで、かなりの治療効果(中等度以上の効果量)があったの[*5]。頻度は週に3~5回がいいとか、エアロビクスやウエイトトレーニングを混ぜるといいとか、最大酸素消費の75%程度の強さがいいといった報告もあるわ[*6]。
*6 Rethorst, Chad D., Bradley M. Wipfli, and Daniel M. Landers. “The antidepressive effects of exercise.” Sports Medicine 39.6 (2009): 491-511.
運動によって脳が変わるという報告も多いの。平均60代後半の人たちが、40分ほどの有酸素運動(速歩)を1年続けたところ、記憶を司る海馬の容積が2%増加したというデータもあるわ[*7]。つまり、脳の年齢が1~2歳は若返ったというわけ。脳をリフレッシュするのに、遅すぎることなんてないのかもね。
それ以外に、おすすめできる方法は……」
そう言って私は5つを列挙した。
これもヨーダからの受け売りだ。
(1)オン/オフ切り替えの儀式を持つ(←特定の音楽を聴く、シャワーを浴びるなど。脳は2つを同時にできない。仕事モードと休息モードをはっきりさせる)
(2)自然に触れる(←人を超えたスケールの非人工物に触れることで、日常・仕事モードからの解放を促進する)
(3)美に触れる(←美しいという感覚は、脳の報酬系・背外側前頭前野などへ作用するとされる[*8])
(4)没頭できるものを持つ(←好きなことに集中すると、報酬系が刺激される)
(5)故郷を訪れる(←育った場所には安心がある。安心は不安の反対)
「娘にも試してみるわ」
ダイアナは穏やかに言った。「マインドフルネスって子どもの反抗期にも効果があるって言われているんでしょ?」
彼女の言うとおりだ。マインドフルネスによりティーンエイジャーの行動が改善し、親子の関係、親の自信が回復したとの報告もある[*9]。
10分弱ではあったが、私のミニ講義にダイアナはとても満足していた。これまで残っていた2人のわだかまりも、まるでウソのようだった。
「なんとなくだけど、ヨシ(吉郎、つまり私の伯父のことだ)があなたを受け入れた理由がわかったわ。私たちがあなたに反発してボイコットしたとき、あの人ったら珍しくみんなに頭を下げたのよ。『ナツにもう一度、チャンスをやってくれ』ってね」
知らなかった。あの無関心そうな伯父が裏側でそんなことをしていたなんて……。きっと伯父の根回しがなければ、私はこの店に戻ってこれなかっただろう。
「この店がダメになったのはーー」
ダイアナが続けた。「1年前にヨシが共同創業者だったセルゲイをクビにしてからなの。それ以来、店のいろんなことがバラバラになって、ヨシもどんどんやる気を失っていった。
ヨシがあなたを呼び戻したのは……あなたにセルゲイと似たところを感じたからかもしれない。私はそんな気がするのよ。だからあなたに賭けてみようと思ったんじゃないかしら」
(次回に続く)