離脱通知が協議開始の前提条件
英国全体の交渉方針はどうなる?

 さて、難航必至と見られる英国のEU離脱交渉は、いつどのような手順で始まるのか。EUの基本条約であるリスボン条約の50条では、加盟国が離脱する際の手続きを定めている。英国が同50条を発動した時点で、EUに対し正式に離脱を伝えたことになり、この通知が協議開始の前提条件となる。

 離脱が実際に成立するまでには、2年間の交渉期間で離脱交渉が妥結し、欧州議会の承認を得て、理事会の多数決で離脱協定が締結される必要がある。離脱協定が締結できない場合は、離脱通知から2年後に当該国へのEU法の適用が停止される。

 なお英国は、離脱交渉が続いている限りはEUの加盟国として留まることになる。ただ、離脱の通知には英国側の議会での承認が必要との解釈もある。それにメイ首相は今回、党首選を戦わずして首相に就任したため、主に野党からは「改めて議会の解散、総選挙を実施して、国民の信任を得るべきである」との声も根強い。仮に議会の承認や解散、総選挙が必要となれば、離脱交渉に入る日程はさらにずれ込むことになる。

 それだけではない。メイ首相は、党首選への出馬表明に際し、「英国全体の交渉方針が決まるまではEU側へ離脱を通知しない。2017年までは協議を始めない」と明言している。メイ首相にとってはこの点が最大の難題であり、最も気がかりな喫緊の課題である。国民投票がかえって国内の地域や階層による格差・亀裂を際立たせ、その利害調整なしに離脱交渉に臨むことはできないと判断し、肝に銘じているからである。

 英北部のスコットランドは国民投票で62%がEU残留を支持、同自治政府のスタージョン首相は「英国のEU離脱はスコットランドの繁栄に対する重大なリスクである。英国がEUから離脱するならば、英国からの独立を問う住民投票を再実施する」と早くからほのめかしていた。このためメイ首相は、就任後の最初の訪問先にスコットランドを選び、新政権が発足した翌15日にはスコットランドの首都エディンバラにスタージョン首相を訪ね、会談した。

 メイ首相は会談後の記者会見で「EUとの離脱交渉へ向け、スコットランドにも深く関与してもらいたい」と発言。英国からの独立を問う国民投票の再実施を探るスタージョン首相を強く牽制した。その上で「英国全体の交渉方針が固まるまでは、EU側への離脱通知は出さない」と改めて明言した。