新卒一括採用は見なすべきか?
世耕経産大臣の問題提起

世耕大臣が唱える新卒一括採用は、学生にとっても企業にとっても本当に負担なのか

 世耕経済産業大臣は8月4日にNHKなどのインタビューで、大手企業の間で定着している「新卒一括採用」の見直しを促していきたいという考えを述べた。「実施する企業は多いが、かなりの比率で新入社員が辞めている。採用される学生も採用する企業も、このやり方は負担だと思っている」と理由を示した。

 学生側にとって、大半の企業が同時期に採用活動を行うことが負担になる側面はある。エネルギーを消耗する競争の下で、忙しく就職を決めなければならない。また、就職活動の期間に学業が疎かにならざるを得ないケースもあろう。

 ただし、内定の時期が早まると、それ以降に学業に力が入らなくなるケースがあるので、選考をもっと遅くしてほしいという大学筋の声は、大学の授業の側に価値や魅力がないだけの問題であろう。就職内定を取っていても、受けることにメリットがある教育だと学生が判断すれば、彼らは大学に来るだろう。企業が学業成績を見ることによって学生を勉強させようというのは、もともと価値のある教育を行っていないことを棚上げにした、大学の勘違いだ。

 一方、企業にとって新卒一括採用は「負担」なのだろうか。他社がそうするから自社もそうしなければならないといった側面が場合によってはあるかもしれないが、採用活動の時期を短縮できることや、学生を短期間で確保しやすいこと、加えて年次単位の安直な人事管理ができることなども含めて、企業にとって新卒一括採用は、理想的ではないまでも、ローコストだから行われているのだろう。「負担」という認識は、企業側にはないのではないか。

新卒一括よりも
中途採用の不利をなくせ

 そもそも、かなりの比率で新入社員が辞めるのは、新卒一括以外の方法で採用してもやむを得ないように思われる。

 俗に「3年で3割辞める」と言われるが、新卒の就職でも中途採用でも、職場と社員のミスマッチは3割くらいはあるものだというのが筆者の実感だ。仕事をしてみると、入社前の期待と異なることは情報収集も判断も不完全である以上十分あり得るし、人的な相性の問題もあれば、3年も経つと会社の様子が変わることもある。

 世耕大臣が、「かなりの比率で新入社員が辞めている」ことを問題視しているのだとすれば、いささかピントがずれているように思う。

 この問題の解決のためには、むしろ中途採用市場を整備すると共に、年金や人事評価などの面で、中途採用者が不利にならないようにすることが重要である。強力に推進すべきは、「やり直しの利く就職活動」ではないだろうか。