一時期盛んに、民間保険のテレビコマーシャルで、「がんになったら、保険の効かない治療が300万円もかかる!」と喧伝したせいか、「がんの治療は健康保険が使えない」と誤解している人もいるようだ。
だが、日本の医療制度では、有効性と安全性が科学的に証明された標準治療には健康保険が適用され、誰でも少ない自己負担で治療を受けられる。がんになって受ける手術や放射線治療、抗がん剤治療も例外なく、この制度にのっとり運用されている。
もちろん、医療費そのものは100万~300万円など高額になることもあるが、健康保険には、医療費が患者の家計に過度な負担とならないように配慮した高額療養費があるので、実際に患者が病院の窓口で支払う医療費は低く抑えられている。
がんで治療が長引くと
医療費の累積で負担が増える
全日本病院協会「疾患別の主な指標」(2013年1~3月)によると、胃がんの手術をした場合、医療費そのものは約97万円が目安だが、高額療養費が適用されたあとの患者負担は約9万円だ(70歳未満で一般的な所得の場合)。
進行していない早期のがんで、1回の手術や放射線治療で区切りがつく場合は、自己負担する医療費は30万~50万円程度ですむことが多い。がんにならなければ支払わなくてもいいお金なので、うれしい出費ではないが、ある程度の貯蓄があれば、なんとか賄える金額ではないだろうか。
がんになって治療費が高額化しやすいのは、がんのステージが進んでいたり、再発や転移をして治療が長引いた場合だ。
進行しているがんは、手術や放射線治療といった局所療法だけでは治らず、抗がん剤を使った全身療法が行われるケースが多くなる。
抗がん剤は、それぞれのがんの部位や進行度によって決まっている標準治療で、多くの人に効果が認められているものが第一候補として使われる。
最初の薬でがんが消失すれば、1クールでいったん治療は終わり、様子を見ることになる。だが、治療結果の判定によっては、「症状が変わらず、悪くなっていない」なら同じ薬を使い続け、「がんが増殖して、悪化している」なら別の薬に変えられ、終わりの見えない治療が続くことになる。
健康保険は適用されても、治療が続く限り、毎月、高額療養費の限度額までは支払わなければいけないので、累積した医療費が高額化してしまうのだ。
こうなると、医療費がじわりじわりと負担となり始め、場合によっては仕事を休んだり、やめたりしなければならない可能性も出てくる。
だが、がんの治療が長引いて働けなくなったときは、「障害年金」が利用できる可能性がある。