世界のメディアが通貨戦争過熱への懸念を報じるなか、10月15日のバーナンキFRB議長の講演録には、ドル下落に関する言及がまったくなかった。米国の金融緩和姿勢は、中国の人民元操作に並ぶ現在の通貨戦争の大きな火種だが、彼はその問題に触れず、暗黙のドル安誘導を進めようとしている。

 9月のFOMC議事要旨は、FRB幹部が物価水準目標に関心を持っていることを明らかにした。低インフレやデフレが続くと、物価水準は、望ましいインフレ率が続いていた場合の軌道から下方に乖離する。それを本来の水準に戻そうとする際に国民に目標となる物価水準を示す。そこへ戻る過程で、インフレ率が上ぶれしても許容し、目標が達せられたら金融引き締めを開始して、通常のインフレ率に戻す、という考えである。

 しかし、メルツァー・カーネギーメロン大学教授は、金融引き締めへの転換が必要な経済状態が表れたとき、政府だけでなく多くの経済主体が金利引き上げに強い反発を示すと懸念している(「ウォールストリート・ジャーナル」紙)。

 ポール・クルーグマンは、最近のコラムで次のように述べた。“2000年にローレンス・サマーズは、アジアの人びとに対して、金融危機を避けるためのカギとして、米国のように「十分な資本を持ったよく監督された銀行、実効性のあるコーポレートガバナンス、破産に関する法体系、信頼されうる契約実施手段」が大事だと教えた。しかし、それらのすべてを米国は持っていなかった。現在問題の住宅差し押さえもそうだ。適切な契約書がない、法律知識が低いモーゲージの所有者に、業者が不正な差し押さえを多々行っている”(「ニューヨーク・タイムズ」紙)。