会社員は協会けんぽや勤務先の健保組合、自営業は国民健康保険、75歳以上の人は後期高齢者医療制度など、日本では職業や年齢によって健康保険の加入先が分かれている。
ただし、基本の保障は同じで、いずれの健康保険組合でも備わっているのが「高額療養費」だ。
高額療養費は、医療費が家計に過度な負担を与えないように配慮したもので、1ヵ月に患者が自己負担する医療費に上限を設けた制度だ。70歳未満で一般的な所得(年収約370万~約770万円)の人は、次の計算式に当てはめて自己負担限度額を算出する。
【8万100円+(かかった医療費-26万7000円)×1%】
この計算式に当てはめると、医療費が100万円だった場合の自己負担限度額は8万7430円になる。だが、なぜ「8万100円」が基準なのか。なぜ、「医療費から26万7000円を差し引くのか」といった疑問がわく。
「国が決めたから」といえばそれまでだが、何か理由があるはずだ。高額療養費については、本コラムで何度も紹介してきたが、今回は自己負担限度額の計算方法の根拠について考えてみよう。
医療費が26万7000円を超えたら
自己負担するのは1%でよい
高額療養費の創設は、福祉元年と呼ばれた1973年(昭和48年)。以後、多数回該当や世帯合算の制度が設けられたり、限度額が変更されたりして、複数の見直しが行われた。現在のように、70歳未満で一般的な所得の人の限度額が、【8万100円+(かかった医療費-26万7000円)×1%】になったのは2006年の制度改正からだ。
高額療養費の限度額はじわじわと引き上げられている印象もあるが、そもそも患者の経済的な負担を抑えるために作られた制度なので、医療費が家計の過度な負担になっては意味がない。限度額は所得水準によって決められており、現在、計算の基準となっている金額は、おおむね月収の25%とされている。
協会けんぽ加入者の平均月収(総報酬月額:ボーナスを含めた年収を12ヵ月で割ったもの)は約32万円で、その25%が8万円だ。
医療費を3割負担して約8万円支払った場合、医療費そのもの(10割)は26万7000円だ。そこで、医療費が26万7000円までは、通常通りに3割を支払い、それ以上に高額になった場合は1%のみ負担することになっている。これが、高額療養費の自己負担限度額の基本的な考え方だ。