「フランクリン・D・ルーズベルトは、大不況から国を救う使命を帯びて1932年に選出された米国大統領である。結局、彼のとった最も有効な政策と同じ政策を日本は採用しなくてはならない。つまり銀行システムの再生と通貨の切り下げである」

 これは2000年にベン・バーナンキ・プリンストン大学教授(現FRB議長)が書いた日本の危機への処方箋である(「日本の金融危機」収録)。現在の米国の危機に対しては、当局によるドル安誘導の手は使えない。ドル暴落のきっかけを自ら作ってしまうからである。

 一方、米銀行システム再生のためには税金を大規模に投入して金融機関の財務状態を抜本的に改善してやる必要がある。バーナンキもそれは痛感している。しかし、それには議員および有権者の反発というハードルがこれからも何度か立ちはだかりそうだ。

 自由経済に政府が介入すべきではないという保守主義の考えに加え、米国の農業、商業、中小企業経営者たちのニューヨークの大手金融資本に対する嫌悪感は伝統的に非常に根強いものがある。古い話でいえば、FRBが12の地区連銀で構成された理由は、単独の中央銀行がニューヨークに設立されると、大手金融資本がそれを操る恐れがあると警戒されたからである(「バーナンキのFRB」第三章)。

 また、ウォール街幹部がすさまじい報酬を得ていたことも米国民感情を逆なでしている。欧州では危機に見舞われた銀行が国有化されている。単なるイデオロギーの違いではなく、幹部の報酬が米国ほど巨額ではなかったことも影響しているだろう。投資銀行出身のポールソンが財務長官であることは、国民感情からはマイナスに働いている恐れがある。「仲間を救済している」と見なされやすいだろう。

 「早めに思い切って公的資金を投入するほうが、結果的に救済コストは小さくなる」ということは外部の人間には自明であっても、当事者の内部ではさまざまな摩擦が起きやすいものだ。民主主義のコストとしてしかたがない面がある。その困難のなかで米当局者がどれだけ対応策を進められるかが正念場となる(こういったとき、中国は対応が早そうである)。

 米国は経常赤字の国のため、貯蓄が多い日本とは異なって、海外投資家に見捨てられたら経済システムが崩壊してしまう国である。このため、日本ほど問題解決を先送りできる時間的余裕はない。現在は欧州経済も傾いてきたため、ドル資産を売却して逃避する先がどこにもないという「幸運」に米国は恵まれているが気を抜けない状況は続いている。

(東短リサーチ取締役 加藤出)