2035年の労働力率の推計値

56.6%労働力率=(就業者数+完全失業者数)÷15歳以上の総人口×100。労働力調査、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」を基に筆者推計

 人手不足と長く好況が続いたにもかかわらず、賃金や物価に加速感は見られない。政府は「デフレではない状況」とはいうが、デフレ脱却宣言には至っていない。というのは、「再びデフレに戻る見込みがない」との判断が必要なためだ。日本の潜在成長率は1%程度しかなく、大きなショックが起こるとマイナス成長となり、再びデフレに陥る可能性が払拭できないのだ。そのため、成長率を高めショックに強い経済にする必要がある。

 供給面から見た経済成長率は就業者数増加率と労働生産性上昇率の合計で示せるが、このうち就業者の動向は、労働力率と15歳以上の総人口から求められる。後者はすでに減少に転じているので、就業者を増やすには労働力率向上が必須だ。

 高齢化によって2010年代の労働力率はそれまでの60%程度からかなり下がるとみていたが、実際は高齢者と女性の労働力率向上で、60%程度を維持できている。18年には61.55%と大幅に上昇し、就業者数は過去最大となった。

 しかし、今後、労働力率の低い高齢者の割合がもっと増えるので、労働力率の上昇は続かない。18年の年齢層・性別の労働力率を前提に推計人口から労働力率を求めると、25年は59.8%、35年には56.6%に下がる。外国人労働者受け入れなど対策を講じるにせよ、就業者の減少は避けられない。

 結局、労働生産性向上が課題になる。政府は17年12月に決定した「新しい経済政策パッケージ」では、持続的な成長実現の鍵になるのは少子高齢化対策と位置付けている。生産性向上と人づくりに取り組み、20年までの3年の集中投資期間に労働生産性上昇率を年2%に倍増させるとしている。

 労働生産性を高めるには、研究開発、ソフトウエア、人的資本などの無形資産の蓄積とその有効活用が重要だが、それを担う人材不足は深刻だ。多くの規制がある中では、自由に創意工夫する企業風土は育ちにくい。政府は規制の抜本的な見直しに注力するとともに、人づくり対策の財源となっている消費増税を再延期するような政策のぶれは最小化すべきだ。

(キヤノングローバル戦略研究所特別顧問 須田美矢子)