今、「“SNS映えしすぎる”テーマパーク」としてテレビ等に取り上げられ大きな話題となっているのが、ハローキティをはじめ、サンリオのキャラクターたちに触れ合える屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)」。今でこそファミリー層はもちろん、大人の男女や外国人観光客も訪れ大いに賑わっていますが、5年前まではスタッフに笑顔は少なく、経営的には赤字が続く危機的な状況でした。
 そこから平日の来場者数を一気に4倍まで増やし、奇跡ともいえるV字回復。でも大規模な設備投資を行ったわけでもなく、人事を刷新したわけではありません。V字回復の原動力はスタッフたちのモチベーションと行動を変えた「人づくり」にありました。
 いったい、どのようにして人材育成の仕組みをつくり、個人とピューロランドの可能性を引き出したのでしょうか。これまでの軌跡をピューロランドの館長である小巻亜矢氏がまとめた『サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)から、一部をご紹介します。(構成・加藤学宏)

キティちゃんの話で盛り上げる
環境を作ることから始める

「従業員同士のコミュニケーションが少ない」と悩むリーダーの声を多く聞きます。年齢、性別、職種、肩書きが異なる人たちが集まる職場が増えているためか、コミュニケーション不足の解消はリーダーたちの大きな課題となっているようです。

 当然ですが、自然発生的に社員やスタッフのあいだでコミュニケーションが活発化することは期待できません。やはり、何らかの仕掛けを用意することが重要です。例えば日本の多くの職場で行われているラジオ体操です。単なる体操以上の効果が期待できるから行われているのではないでしょうか。

 じつはピューロランドでも、かつてはコミュニケーションに課題がありました。しかし今では、若い女性と中年男性の壁を取り払い、なかよくキティちゃんの話ができるようになっています。

 ピューロランドでお客様の前に立つスタッフは、多くが若い高校生や大学生の女性です。サンリオのキャラクターと一緒に成長してきた女の子たちが高校生・大学生になり、楽しく働ける場所として、たくさんご応募いただいています。

 そのためか、女性が多い会社だと思われることもあるのですが、実は正社員の5割が男性です。テーマパークはお客様の目には触れませんが、快適・安全に過ごせるように設備を管理したり、ショーをスムーズに進行したりする裏方の仕事に支えられています。さらに舞台裏には多くの会社と同じようにマーケティング、営業、総務といった部署や課があります。性別・年齢に関係なく活躍できる、幅広い仕事があるのです。

 そんなピューロランドは、今でこそサンリオの世界観に統一されたテーマパークだと胸を張って言えますが、業績が落ち込んでいた頃は正直言って微妙でした。イベントやレストランなどで世界観が統一されておらず、違和感を覚えて現実に引き戻されてしまうこともありえたのです。

 根本的な原因として、各部署やスタッフの間で情報が共有されていないことにあると考え、部署の壁や立場の違いを越えて、自然なコミュニケーションが生まれる環境をつくることが急務でした。