今、「“SNS映えしすぎる”テーマパーク」としてテレビ等に取り上げられ大きな話題となっているのが、ハローキティをはじめ、サンリオのキャラクターたちに触れ合える屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)」。今でこそファミリー層はもちろん、大人の男女や外国人観光客も訪れ大いに賑わっていますが、5年前まではスタッフに笑顔は少なく、経営的には赤字が続く危機的な状況でした。
 そこから平日の来場者数を一気に4倍まで増やし、奇跡ともいえるV字回復。でも大規模な設備投資を行ったわけでもなく、人事を刷新したわけではありません。V字回復の原動力はスタッフたちのモチベーションと行動を変えた「人づくり」にありました。
 いったい、どのようにして人材育成の仕組みをつくり、個人とピューロランドの可能性を引き出したのでしょうか。これまでの軌跡をピューロランドの館長である小巻亜矢氏がまとめた『サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)から、一部をご紹介します。(構成・加藤学宏)

「期間限定」と「お試し」は
反対を乗り越える魔法の言葉

「人づくり」と言っても、その前段階、既存の組織の中で何か新しい試みをしようと思っても、一筋縄で行くものではありません。新しい考え方を取り入れたり、前例のない取り組みを始めたりするとき、社内の反発や軋轢によって前進しない例はよく耳にします。

 かつてのピューロランドでは、外部の目で見ても部署間の連携が足りないことは明らかでした。そこで導入したのが、部署間での意思疎通や情報共有をはかる「コンセプト会議」です。この会議を提案したところ「そんなことができればいいですけどね。なかなか難しいですよ」と言われてしまった経験があります。

 連携が足りないと感じる場面は、随所にありました。館内にある案内表示の色やデザイン、使っている文字のフォントがバラバラという状況は、テーマパークにおいては違和感を覚えました。シーズンイベントでも、ショーと限定グッズ、レストランのメニューに連動性がありませんでした。

 テーマパークではない業種であっても、コーポレートカラーやメッセージ、数字が統一されていないホームページやパンフレットを使っていたのでは、企業イメージを損なってしまいかねませんし、顧客に混乱を与えてしまいます。マーケティング、広報、情報システム部門、さらには営業が独自に作成した資料……それぞれの立場でのやり方に口出しすることになるため、反発を恐れて二の足を踏んでしまうこともあるでしょう。

 こんなとき、提案を取り下げるのではなく、さりげなく提案してみてはどうでしょうか。使えるキーフレーズは「期間限定」や「お試し」です。大上段に構えることなく、「あなたの意見もわかります。でも、ちょっと実験させてもらえませんか」という言い方なら相手を否定せずに済みますし、実験やお試しにノーと言う人はまずいません。ピューロランドでは、こうしたフレーズを使いながら提案し、組織に新しいことを取り入れていきました。