過熱化の背景にある日中教育システムの違い

――なぜ中国人家庭がここまで中学受験にのめり込むようになったのでしょうか。

 今のようにみんなが受験するようになった背景には、SNSの普及もあると思います。匿名ということもありますが、小紅書(シャオホンシュ、主に中国大陸で使用されているSNSプラットフォーム)で自分の子どもの成績や合格校をアップする親がたくさんいます。それを見た親が「うちの子も」となります。

 また、中国人の親は日本の学校事情がよく分かっていないこともあって、日本の公立校に不安を抱いています。中国と日本での教育や受験制度の違いも大きいと思います。中国では、高校(普通高級中学)に進学できるのは半分くらいで、統一試験(中考)を受ける必要があります。

――日本の教育制度や学校に関する知識不足もあると。

 中国の中学校は、生徒の入試科目の成績を何よりも重視しているので、成績の悪い子は家に帰らせずに暗記させたり、よく親も学校に呼び出されます。大学受験指導も高校が行い、日本の予備校のようになっています。

 だからなのか、日本の偏差値の高い学校は、中国と同じように知識を詰め込んでくれると中国人の親は思っています。でも実際の日本の難関校は、「勉強は自分でしなさい」という学校が多いかもしれません。

――中国では塾を禁止する動きもありましたね。

 これになじまない家庭は、私立校やインターナショナルスクール、海外の学校に通わせるわけですが、中国の私立校もインターも、学費は日本の2倍くらいかかります。日本の中等教育は安くて質がいいと思い、「中高は日本で学ばせたい」というご家庭も多いのですが、日本の学校と受験の情報が十分ではないため、自分たちの思っていた姿と日本の学校が違うとこぼす人もいます。

――それはミスマッチを生みますね。

 中学と高校の入試問題を見比べて、子どもの発育状況に照らして判断してほしいと思います。日本に来てから1年で中学を受験させる親もいます。しかし、日常会話はできても、日本語の語彙数が足りなくて単語の意味が分からず、読解問題を解くことは非常に困難です。それを親が見抜けないことも、中学受験が過熱している理由の一つだと思います。