
森田京平
ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する経済制裁などの「脱ロシア」の動きは、「脱炭素」と同様にインフレの高止まりにつながる。中央銀行に従来の政策判断のモノサシの修正を迫ることになる。

金融政策変更の鍵は消費者物価の動向と政策委員会メンバーの人事だ。今夏のリフレ派審議委員の後任人事を手始めに“緩和DNA”が変化し、2025年前半には金融政策正常化が始まる可能性がある。

コロナ禍の1年半で3度目の大規模経済対策が決まったが、そのこと自体が、経済社会の本当の課題に取り組まず、将来の成長を促す内容になっていない政策作りの根深い問題を露呈している。

ポスト菅の新政権は「2%インフレ目標」を維持するなら、労働市場で雇用調整が円滑に行われる制度の導入と「賢い財政支出」を通じて潜在成長率引き上げにコミットする「2つの覚悟」が求められる。

量的緩和縮小が現実味を帯びるなかでFRBが新設した資産買い入れオペの枠組みは、米政府の債務上限問題が紛糾した際に重要性を持つだけでなく短期金利誘導のツールにもなり得る。

FRBの量的緩和縮小の鍵を握るのは労働参加率と消費者物価指数(CPI)の基調で、失業率やコアCPIに過度に注目するのは禁物だ。現状ではテーパリング開始は2022年1~3月と予想する。

米FRBは「雇用の最大化」を実現する際に「最大雇用」の捉え方を従来の「完全雇用」から「包摂雇用」に変えている。足元の失業率は低下したが量的緩和の縮小に着手するのは2022年初頭になりそうだ。

コロナ禍での金融政策の「点検」やレビューを日本銀行やECBが掲げているが、ECBが検討する潜在成長率引き上げを狙った「グリーン金融政策」は従来の金融緩和策に「新たな次元」を加えようとするものだ。

日本や中国など15カ国が署名したRCEPは世界最大の経済連携協定(EPA)であり、日本も貿易量が増える期待はあるが、RCEPとデジタル人民元(DCEP)が共鳴することでアジアの経済・通貨地図が塗り替わる可能性がある。

日本銀行など主要中央銀行が実証研究を始める中央銀行デジタル通貨は、デジタル社会の決済手段になり得るだけでなく、「名目金利はマイナスにならない」という”制約”から金融政策を一段と解放する可能性がある。

アベノミクス景気は戦後最長を実現できなかったものの「2番目の長さの景気回復」を達成した。一方、回復期間中の成長率は戦後最低を記録した。その背景として、労働生産性が全く改善しなかったという特異性が挙げられる。

過去の財政赤字や金融政策のかかわりを振り返ると、日本銀行の長短金利操作は財政ファイナンスの「第5の方法」を具現化するツールだ。新型コロナ対策が盛り込まれた2020年度予算も日銀の国債買い入れなしでは成り立たない。

コロナショックへの対応で日本銀行が民間部門の資金繰り支援を一段と強化した。しかも、次回決定会合では、日銀が中小企業に対する「最後の貸し手」機能に、間接的に関わる経路が開かれる可能性もある。

1-3月期の実質GDP成長率はインバウンド需要の急減などで昨年10-12月期に続いて「マイナス成長」になりそうだ。ただし中国からの訪日者数は例年、夏場に増える。新型コロナウイルスの感染抑制が間に合えば、年後半の景気の視界が晴れるだろう。

2020年の経済に影響を及ぼす重要イベントは、国内ではリフレ派、原田泰日銀審議委員の後任人事に始まり、改憲を巡る政局の動向だ。海外では米中摩擦などに新たに米大統領選が加わる。

日銀が今回、修正したフォワードガイダンスはCPI展開次第で追加緩和の可能性を示唆したが、日銀の主観的な物価判断に依存する度合いが強まり、今後の金融政策を予想する上で、もはやロジックは役に立たなくなった。

長期金利の急速な低下は景気後退のサインではないが、日本の潜在成長率はこの20年、低いままだ。「労働投入」でなく「技術革新」によって潜在成長率を高めることが、長期金利を上げる王道だ。

国政選挙で自民党が勝ち続けているのは、衆院選挙では小選挙区、参院選挙では選挙区という制度が得票率に比べて議席獲得に有利に働いていることが大きい。だが「改憲」となると事情が違う。

景気判断の「悪化」とともに消費増税の「3回目の先送り」の議論が出ているが、幼保無償化の財源を考えると難しい。それは安倍首相が前回、増税先送りを表明した会見での発言からも“約束”されている。

日本銀行は「異次元緩和策」で物価目標やマネタリーベース、さらに金利へと「約束」を増やしてきた。政策運営が分かりにくくなり、「約束」の間で矛盾が生まれて袋小路に追い込まれている。
