「大変」なのに「楽しめる」唯一の行動
とはいえ、課外活動の効果を示す科学的根拠はまだ十分とは言えない。スポーツや音楽などの習いごとや、ディベートチームでの活動や、学校新聞の編集や、アルバイトなどの活動に、子どもたちを無作為に振り分けて観察した実験など、例を挙げたくてもひとつも思いつかない。
だが、少し考えればその理由はわかるはずだ。子どもがどんな活動をするか(あるいはしないか)を適当に決めてもらってかまわない、という親などいるわけがないし、倫理上の理由からも、研究者が子どもたちに習いごとや活動を強制する(あるいは禁じる)ことはできないからだ。
しかしひとりの親として、また社会科学者としての立場から言えば、子どもがある程度大きくなったら、学校の勉強以外に、楽しんで取り組めるような習いごとや活動を見つけて、かよわせることをお勧めしたい。もし魔法の杖があったら、私は世界じゅうのすべての子どもたちに、自分の好きな課外活動をひとつはやらせてあげたいと思う。そして高校生になったら、最低でもひとつの活動に1年以上は取り組ませたい。
まるで子どもの1日のスケジュールは分刻みで決めておくべきだ、と言っているように聞こえるだろうか?そんなつもりはまったくない。けれども、週にある程度の時間は、子どもが興味を持ったことにしっかりと取り組ませたほうが、子どもはたくましく成長すると私は考えている。
そのような大胆な提案をするのはいいが、さきほど述べたとおり、科学的根拠はまだ不十分だ。しかしこれまでに行われた研究は、私の目から見ても、きわめて示唆に富んでいる。
身近な例を考えても、子どもたちがバレエやヴァイオリンやフットボールで賢明な教師やコーチの指導を受けたおかげで、「やり抜く力」を身につけたという説得力のあるケースがきっとあるはずだ。
ある研究では、まず子どもたちにポケベルを持たせ、一日じゅうポケベルが鳴るたびに、「いまなにをしているか」と「いまどんな気分か」を報告させた。すると、授業を受けているときは、子どもたちは「大変」で「やる気が出ない」と回答した。いっぽう友だちと遊んでいるときは、大変なことはなにもなく、「すごく楽しい」と回答した。
では、課外活動のときはどうだろう?子どもたちはスポーツや音楽、学芸会の演劇のリハーサルなどに取り組んでいるときは、「大変」だけれど「楽しい」と答えた。このように、子どもたちが大変なこと(チャレンジ)にやる気をもって取り組むのは、課外活動以外には見当たらない。
つまり、この研究の結論はつぎのとおりだ。学校の勉強は大変で、多くの子どもにとっては、本質的に面白いものではない。友だちにメールを打つのは楽しいが、やりがいはない。
では、バレエはどうだろう?バレエは大変だけれど楽しいのだ。