6000億ドルの新規国債購入を軸とする米国の量的緩和は、もはや金融政策ではない。財政赤字をまるごと買い取ってしまう“財政政策”だ。各国の反発も気にかけず、ドル安誘導とインフレ促進でバランスシート調整の苦境を乗り切ろうとするFRBにつきまとう怪しさ、危うさとは何か。加藤出・東短リサーチ取締役に、バーナンキ・FRB議長の真意を聞いた。

――6000億ドルもの国債の新規購入を軸とするFRBの追加緩和に対して、市場はどう受け止めたのか。
 
  想定内との反応が大半だ。

加藤出・東短リサーチ取締役

 ダドリーNY連銀総裁が事前に、「国債を5000億ドル新規購入すると、短期金利を0.5~0.75%引き下げるのと同じ効果が生まれる」と講演で述べたために、5000億ドルが追加緩和の基準と見られていた。したがって、6000億ドルという規模は想定内だ。

――この大型追加緩和の効果はあるのか。

 FRBが表向きの意図としている、長期金利低下による景気刺激効果はそれほど期待できないだろう。ダドリーNY連銀総裁の「0.5~0.75%の引き下げ効果」発言は、専門家の間では、楽観的な見積もりだという見解もある。

 何より、米国景気の回復が思わしくないのは金融緩和が不十分だからではない。家計の消費が伸びず、企業が投資を控えているのは、金利が高いからではない。住宅市場の混乱が続いて資産価値が下がり続け、雇用問題解決の糸口が見えず、将来への不安、不確実性が高まっているからだ。厳しいバランスシート(BS)調整の最中にあるからだ、と言い換えてもいい。それを金融政策だけで解決するのは難しい。

――BS調整とは何か。

 米国では住宅バブルによって、家計のBSが資産(住宅価格)と負債(住宅ローン)が両建てで膨れ上がった。バブルが崩壊して住宅価格は暴落したが、住宅ローンは減るわけではない。ところが、住宅ローンを返済しようにも、失業率は10%近くに達し、賃金は抑えられ、毎月一定の収入を得るのが難しい人々が数多くいる。家を売却しても、住宅価格が下落しているから、借金は残ってしまうので解決にならない。住宅ローン返済がままならず、差し押さえも続出し、政府が救済策を打ち出している混乱振りだ。