真のグローバル経営を経験してきたビジネス・リーダーが、日本社会・日本企業の課題に対し『和魂洋才』の新たな視点から解決策を提案し、日本社会に変革を起こしていくことをゴールとして活動する「GAISHIKEI LEADERS」。そのメンバーが、経営のグローバル化と日本のユニークな強みを調和させた新しい「グローバル経営論」を解説するセミナー(共催/司会:ISSコンサルティング)の内容をダイジェストでお届けします。
7月16日に開催された第1回のテーマは「グローバル企業における共創(M&A、インテグレーション)とは?」。まず今回お届けするのは、セミナー冒頭で、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社長を兼務する留目真伸氏が解説された内容です。いま進みつつある第4次産業革命のカギとは何か?留目社長の解説後、セミナー参加者が6チームに分かれてM&A案を発表し、留目社長ほかGAISHIKEI LEADERSのメンバーに寸評を受けた様子については次回ご紹介します。
第4次産業革命では「共創」がカギになる
今まさに「第4次産業革命」が始まっています。インターネットが進化し、全てがつながりはじめたことよって、バリューチェーンや、現場のオペレーション、サービスのあり方、人々の関係性などが急速に様変わりしてきています。それも、もちろんグローバルに。そうやって産業構造、事業構造が大きく変わろうとしているとき、新たな事業を生み出し、新しい製品・サービスを提示するカギになるのは「共創」ではないかと考えています。
共創についてもう少し具体的に、私たちレノボが手がける「コンピューティング」を例にとってお話してみましょう。
まず前提となるレノボの状況について紹介しておくと、現在PCの世界シェアでトップ、タブレットで3位という位置にあり、従業員は6万人を抱えています。ここまで業容を拡大できたのも、M&Aや協業による成果です。主な統合実績としては、2005年のIBMのPC事業、2011年のドイツの家電メーカー・メディオン、NECのPC事業、2014年のモトローラの携帯事業、IBMのサーバ事業などがあります。レノボの「パーソナルコンピューティングを普及させる」というミッションを実現するために必要と思われる事業をそろえてきた結果です。
そもそもその生い立ちから、アジア系や欧米系など多様な文化的背景をもつメンバーが集まっていたため、考え方はみな違うものであり、また、その多様性こそが強みの源泉だという共通理解が根底にある、非常にユニークなグローバル企業です。買収・統合の際も、もちろん合理的に統合/共通化して規模のメリットを追求し効率化することもやるけれど、違ったものの良さを残すべきところまでムダに統合したりせずローカルの裁量に比較的任せる風土があるので、統合後の運営がうまくいっていると思います。
じゃあ、今後も成長が可能なのか?さて、ここからが本題です。
一般的にハードとしての「パソコン」のビジネスはコモディティ化して儲からなくなった、成長も限界にきた、と言われています。でも、第4次産業革命の中にあって実はそうではないんじゃないか、と私は考えています。
メインフレームしかなかった時代に、会社や研究機関のごく一部の人だけしか触れられなかったコンピューティングパワーが、約30年前にパソコンに進化して、ごく普通の生活者も使えるようになった。その後の業界の発展が私たちの記憶に新しいために、どうしてもみんなパソコンというと決まった形のハードを新しくしていくビジネスだとつい思ってしまうのですが、そうではない。レノボが手がけているのは「パーソナルコンピューティング」のビジネスなんです。
翻って考えてみると、私たちの暮らしは便利になったとはいえ、いまだにサザエさんの時代と大して変わっていないと思いませんか。
本当にパーソナルコンピューティングが普及していれば、今私がみなさんにこうして話している間も、もっと皆さんが聞きたいと思うトピックを瞬時に拾ってこんな話をしたほうがいいよというサジェスチョンをコンピュータからもらえたり、私が挙げた事例のデータをもっと厳密な推移のグラフとしてさっと皆さんの前に示せたりしてもいいはずです。でも、全然そうなっていません。家の中の環境だって数十年変わっていない。つまり、私たちの生活はまったくコンピューティングパワーにサポートされていない。それを考えると、レノボがやるべきこと=成長の種はまだまだ無限にあるわけです。
それを実現するために必要なものこそ、「共創」です。これは私に限らず、最近多くの方が仰っている点でもあります。
1社や1部門という縦割りの仕事の仕方ではなくて、組織の枠を超えプロジェクトベースでさまざまな知恵と能力を集めた仕事の進め方を覚える必要があります。
そもそも会社自体、事業の目的のために人が集まるプロジェクトのようなものであるにもかかわらず、多くの会社ではしばしば事業の“目的”が忘れられ、会社組織という共同体を生きながらえさせることが目的にすりかわってしまっている。これが一番ダメです。第4次産業革命の世界では、すべてがつながることを理解した上で、会社の枠を超えてソリューションを柔軟にデザインしていかなければならないわけで、これまで以上に『目的』ドリブンなプロジェクトベースでの仕事が主流になってくるでしょう。