SNSの拡散力によって世に出、『SNSポリスのSNS入門』を出版した、漫画家・かっぴー氏と、SNSの第一人者として知られるジャーナリストの佐々木俊尚氏。出自もパーソナリティも異なる両者ですが、SNSの世界をサバイブする日々で得た発見は、現代ビジネスパーソンにとって必読!SNSを上手に利用するために、2人の議論は続きます――。

(編集:友清哲 写真:中野修也)

メディアも書き手も読者にとっては「空気」なのかもしれない

佐々木 かっぴーさんは『SNSポリスのSNS入門』の中で、万単位のフォロワーがいるユーザーをSNS界の「ヒルズ族」と表現していましたよね。

かっぴー それでいうと、60万人超のフォロワーを抱える佐々木さんは、完全なるヒルズ族ですよ。僕はせいぜい、青山のスパイラルビルの入口あたりをウロウロしている感じです(笑)。今、フォロワー数が1万人弱くらいなのですが、これが大台に乗ると、もっとフォロワーを増やしたいという欲が出てくるような気がしてイヤなんですけど。

佐々木 面白いですね。1万人を境目に、何らかの分岐点があるわけだ。

佐々木俊尚(ささき・としなお) 1961年、兵庫県出身。作家・ジャーナリスト。早稲田大学・政経学部政治学科中退。毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆活動を続ける。『レイヤー化する世界』『キュレーションの時代』『電子書籍の衝撃』など多数

かっぴー でも、本当はフォロワー数よりも、実際に見てくれてれる人を増やさなければ無意味なんですけどね。

佐々木 うん、それは同感です。僕もフォロワー60万人といっても、実際に読まれている数は、1ツイートあたり1万にも満たないのではないかと思いますし。

かっぴー それでも凄い数字ですけど……。ただ僕も、フォロワー数よりインプレッションを見て、反応してくれている人の比率を大事にしたいと思っています。

佐々木 その反応も、時代によって少しずつ変わってきてるように思います。僕は2010年から毎朝、10本程度のニュースをキュレーションしていますが、とくに震災直後などは毎回大きな反響があったんですよ。まだフォロワーは数万人だったのに、毎日300件くらいリプライがあったりして。今はせいぜい50件くらいです。

かっぴー それは興味深いですね。当時のほうが、ツールとして双方向だった、と。

佐々木 そうなんです。それに比べて今のTwitterは、どちらかというとテレビに近くて、目の前で流れているものを見るだけのメディアになっている気がします。ファボもリツイートも、以前ほどつかなくなりました。

かっぴー それにしても、おそらく今後はもう、もともと名のあるタレントでもないかぎり、1から佐々木さんのように60万人規模のフォロワーを獲得するのは難しいでしょうね。Twitter全体のフォロワー数は底上げされているのでしょうけど、上のほうは頭打ちに見えます。

かっぴー 1985年、神奈川県出身。漫画家。株式会社なつやすみ・代表取締役社長。武蔵野美術大学卒業後、東急エージェンシーのクリエイティブ職に就く。その後、面白法人カヤック勤務を経て、2015年から漫画の執筆を開始。大反響を呼んだ「フェイスブックポリス」を皮切りに、「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」「左ききのエレン」など話題作を次々に発表

佐々木 自分自身の影響力にも、疑問を感じることは多いです。たとえばトークイベントなどで大学生に会うと、「何をされている方ですか?」と聞かれることがあるので、Twitterのアイコンと同じデザインの名刺を渡すと、そこで初めて「あ、私フォローしてます!」と言われたりする(苦笑)。佐々木俊尚という名前は認識せずに、毎日僕のツイートを読んでいるわけです。

かっぴー なるほど。これはツイートだけでなくネット上の記事にも言えることですが、それを誰が書いているかというのは、あまり重視されなくなっているんでしょうね。書き手まで意識して読むのは、かなりリテラシーの高い層だと思います。

佐々木 Yahoo!ニュースも同様です。その配信元がダイヤモンド・オンラインであっても、読んだ人は「Yahoo!の記事を読んだ」という認識になる。

かっぴー ああ、それは漫画を描くようになって、いっそう痛感しています。「どこそこに描いてた漫画、読んだよ」と媒体名まで言ってくれる人は、たいてい業界の人ですから。

佐々木 つまり一般の人にとってはもはや、媒体や筆者というのは空気のような存在になりつつあるのかもしれませんね。