自動車用半導体大手のルネサスエレクトロニクスが、約3200億円で米半導体会社を買収する。ルネサスにとっては大型M&Aだが、数兆円規模で進む半導体のメガ再編の荒波の中では小粒な買収だ。世界的な潮流となっている規模拡大に背を向けて、自ら選択した買収にルネサスの命運が懸かる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 村井令二)

ルネサスの米社買収は半導体世界再編の渦中で吉と出るか9月13日、米インターシル買収について東京都内の本社で記者会見するルネサスの呉社長。6月に就任したばかりだが、固定費削減のステージを脱し、売り上げ成長への転換を担う。この買収が反転攻勢のきっかけとなるか Photo:Photo/Kyodo/Getty Images

「今まで厳しい固定費削減をやってきた。ここから成長に入る。この買収はその狼煙(のろし)だ」(呉文精・ルネサスエレクトロニクス社長)。9月13日、半導体大手のルネサスが、米半導体会社のインターシル(カリフォルニア州)を買収すると発表した。2017年6月までに完了する。完全子会社化のために投じる資金は32億ドル(3250億円)で、16年3月期の当期純利益の4倍の規模に上る。同社にとっては大きな賭けとなる。

 日立製作所と三菱電機の半導体統合会社がNECエレクトロニクスと統合して10年に発足した同社は、13年の産業革新機構による出資を受けて大規模リストラに着手。14年度に初の最終黒字を達成し、15年度は15%の営業利益率を達成するまでスリム化した。

 一方で「まだ病み上がり」(同)にすぎないルネサスがM&A(合併・買収)を急いだのは、半導体業界が世界的な再編の荒波に直面しているためだ。昨年12月には、当時マイコン業界2位だったNXPセミコンダクターズが同4位のフリースケールセミコンダクターを当時のレートで約2兆円で買収し、ルネサスは首位を明け渡した(下図参照)。さらに今年4月には、米マイクロチップ・テクノロジーが、同業の米アトメルを当時のレートで4000億円で買収し、ルネサスを追い上げている。

 ルネサスが得意分野のマイコン業界で、再編の挟み撃ちに遭う中で、M&Aの相手として選択したのがインターシル。マイコン同業や、車載用半導体の大手メーカーではなく、汎用アナログ半導体を手掛ける老舗メーカーだった。