これまで掲げた2つの図のオーソドックスな指標はともに小泉政権下では格差が縮小していることを示しているが、国民は、小泉政権の改革路線の影響で格差が拡大しつつあると思い込むようになったのである。

 海外と異なり、日本では、実態と意識が大きく食い違うこうした皮肉な状況となったのは、日本の格差が世代間格差の動静で大きく影響される特殊な性格をもっているからだと考えられる。小泉路線の影響で非正規雇用が増え、格差が広がっている側面も当然あるのだが、一方で、既得権益の打破で世代間格差を縮小させる側面がそれを打ち消し、結果としては、格差指標が横ばい傾向をたどっていると考えられよう。

 いずれにせよ、日本の格差は、この程度のものなので、欧米のような階級対立につながるような格差拡大の動きには、いまのところ至っていないと判断できよう。日本の場合は格差社会と言うよりは格差不安社会が深刻化しているのである。

依然として日本は「総中流」
下流意識は広がっていない

 もしマスコミ報道などで当然視されている日本の格差拡大が本当なら、当然、国民の中には「下流意識」をもつ人が増えている筈である。この点に関するデータがないわけではないが、報道されることがないので、ここで紹介しておくことにする。

 データ源は、国民意識の調査としては、無作為抽出によるサンプル数の多さや電話調査でなく訪問調査という調査方法の継続実施などから、もっとも信頼性が高いと見なせる内閣府世論調査である。

 かつて高度成長期をへて国民生活が豊かになり、人口も1億人に達した1970年代に、日本社会は「一億総中流化」と特徴づけられるようになった。この時に必ずマスコミによって引用されたのがこの調査である。「お宅の生活程度は」ときかれて、「中の上」「中の中」「中の下」を合わせて「中」と答える者が国民のほとんどを占める結果となっていたことでそう言われたのであった。

 近年では、所得や資産の不平等感が増しており、貧富の格差は広がっているとされることが多くなっているが、そうであるならば、この意識調査の結果も、「中」が減って、「下」(あるいは「中の下」)が増えている筈であるが、果たしてそうなっているだろうか。

◆図3 階層意識の推移

©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載
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 この世論調査の推移は一目瞭然。今でも、総中流化という特徴は変わっていない。また、「中の上」が増え、「中の下」や「下」が減少という傾向が長期的に続いている。さらに、貧困の増大や格差の拡大が進んでいるとされる小泉政権(2000年代前半)以降の時期になっても、にわかに「中の下」や「下」といったいわゆる下流層(あるいは下流層と自認している層)は増えておらず、むしろ、減っている。