ハリウッドの映画制作者、イアン・コインは「トランプ支持者の半分はレイシストだ、とレッテルを貼り付けたヒラリーに、自分はもう我慢ができない」

 そんな中、トランプTシャツを着ていた36歳のイアン・コインは、「実は、過去の大統領選ではオバマに2度とも投票してきたんだ」とつぶやいた。

「初の黒人大統領の誕生も、自分にとってはとてもエキサイティングだったし、それ以上に彼が語る未来への希望に共感したから」

 熱心なオバマ支持者だった彼が、オバマの8年間の終焉に見たのは、人種間の対立の暴動で、まるで戦場のように炎が燃え上がる各都市の姿だった。

民主党勢力下のハリウッドで「トランプ
支持」を表明した映画製作者の胸の内

「こんなはずじゃなかったのに」

 そんなときに、トランプの恐れを知らないような本音の言動の数々に次第に惹かれていったという。コインはハリウッドで働くフィルムメーカーとして、アルメニアから米国に移民してきた少年の生き様を描いた映画『アラム・アラム』を製作した。昨年のLAフィルム・フェスティバルで同作を公開し、注目もされた。

 民主党が強く、オバマやクリントンが選挙資金集めをしてきたドル箱であるハリウッドで、トランプ支持者であることを「カミングアウト」するには時間がかかったという。スポンサーを怒らせれば、職を失う恐れもあるからだ。本音ではヒラリーを支持しない映画製作者たちも、レッドカーペット上のインタビューではヒラリー支持だと語るのをコインは何度も見てきたという。「映画を多くの人に買い付けてもらうには、客を怒らせないことが重要だからね」。

「トランプ支持者の半数は救いようがない人間で、レイシストだとヒラリーはついにはっきり言った。それを聞いてもまだ職を失うのが怖くて沈黙していたら、もう自分は民主主義国家に生きているとは言えないと思ったんだ」

 職場であるハリウッドで、トランプTシャツを着て歩くことは、マッカーシーのアカ狩りの時代にあえて共産党員だと告白するのに似ている、とコインは言う。

「トランプTシャツを着ていると、色々な人から声をかけられる。『実は自分もヒラリーが嫌いだ。自分には君のような勇気はないけど、代わりに行動してくれてありがとう』と映画関係者から言われることが、罵倒されるより15対1ぐらいの割合で多いかな」

 コインが夜更けの劇場の外に一歩足を踏み出すと、通りかかった若者3人組が、すかさず彼のTシャツを見て「ひょえー!トランプ!トランプ!トランプ!」と嬌声を挙げて、彼をおちょくった。

 笑顔で彼らに「サンキュー!グッドナイト」と答えて歩き去るコイン。

 大統領選の投票日まで約1ヵ月強。LAの熱帯夜は、多種多様のアメリカ人の声を飲み込んでふけていくのだった。