セキュリティチェックは
ハードだけでなくソフトも重要

 では、こういったセキュリティに関するハードウエアを導入すれば事足りるのであろうか。

 決してそうではないと、筆者は考える。今回の大口病院のような「内部犯行」説が疑われるようなケースでは、来訪者を管理するセキュリティシステムは、あまり有効とはいえない。監視カメラの病室への設置も患者のプライバシーを考えると容易にできるものではない。

 ハード面だけではなく、ソフト面も重要なのである。

 そもそも日本の病院では、院内での「ガバナンス」が効いていないのではないか。特に欧米の病院に比べると、お粗末な状況と言えよう。

 ここでいうガバナンスとは、「相互監視」のような意味で用いている。確かに病院には医師や看護師のような国家資格を持った専門家が多い。しかも、大半の人たちが使命感や倫理観を持って働いている。だからといってその良心にのみ任せてよし、とする時代は残念ながら終わった。いまや「性善説」では通用しなくなっているのだ。

医療事故防止の観点からも
ガバナンスが重要

 大口病院のような事件とは少し関係のない話だが、2015年4月に手術を受けた患者の相次ぐ死亡が発覚し、開院後わずか1年で閉院に追い込まれた「神戸国際フロンティアメディカルセンター」の事件があった。この病院で生体肝移植の手術を受けた9人のうち5人。患者と執刀医師の間ではそれなりに説明がなされて、患者は納得して手術を受けたのであろうが、死亡率があまりにも高すぎたために「無理に手術を行ったのではないか」と糾弾されてしまったのだ。

 この事件は、主治医というか執刀医が一人で、手術の適応を決めて実施していたために起こったといえる。

 今年7月末に調査報告書が出た群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡手術等による医療事故もしかり。手術後に患者が相次いで死亡した医療事故だが、手術前の十分なインフォームドコンセント(患者にリスクを含めた丁寧な治療方針の説明をして、同意を得ること)をはじめ、医療行為における意思決定の透明性、情報公開などのガバナンスの欠如が生んだ悲劇といえるだろう。

 病院内での医療従事者、職員の犯罪だけではなく、医療事故防止の観点からもガバナンスは重要となる。

 ガバナンスにおける「相互監視」の対象は、むろん、医師だけではない。同じことは看護師や薬剤師など、他の病院職員の業務にも当てはまるだろう。

 大口病院においては、患者死亡の事件が発覚するまで、看護師の服が破られたり、カルテの紛失、飲み物への異物混入など異常な事態が複数回あったにもかかわらず、適切な措置がなされなかった。ガバナンスはないに等しいものだったのである。

 これからの病院は、ハード面でのセキュリティ対策のみならず、内部でのガバナンスを徹底させる必要がある。そして、それが病院内の犯罪だけでなく、種々の医療事故を起こさないために必要なことなのである。