確かに介護保険制度には税金が投入されており、「福祉」や「公共性」が常に問われている。介護報酬などを賄うために保険料を40歳以上の国民から徴収しているが、全体の半分は国や自治体からの公金で成り立っている。

 利用者が事業者と契約を交わして介護サービスを購入する形をとっているものの、様々な基準が制約として課されているのは、税金の存在が大きいからだ。普通の民間の保険市場と全く異なる。

 事業者が得る収入の大半は、報酬としてほぼ全国一律に決められている。「準市場」と言われるゆえんだ。

 だが、視点を利用者に移すと、介護のすべてのニーズを介護保険制度で満たすことはできない。医療と異なり、介護は「生活」「暮らし」と並走しているためだ。利用者の細かい日常的な要求を掬い上げる事業者の存在が欠かせない。

 そこで、事業者間の「競争」の内容が問われる。こうした背景に基づいて公正取引委員会の登場となる。競争状態に目を光らしている公取委が、介護分野にも光を当てはじめた。

介護事業がサービス業として大きく飛躍できる内容

 その提言は、介護事業がサービス業として大きく飛躍できる条件を提示した画期的な内容だ。飛躍を妨げている「障害物」も抉り出し、改革への道筋も盛り込んだ政策提言でもある。

 提言をまとめるに前に公取委は入念な手続きを取った。2015年1月に介護事業を営む株式会社、社会福祉法人それぞれ1000社と市区町村自治体600団体に実態把握のための調査票を送付。有効回収率は事業者が47~48%、自治体が70%だった。

 ウェブサイドでのアンケートを、在宅サービスと施設利用者及びその家族から合計931人に実施。さらにヒアリング調査を26法人、5自治体などに行った。

 こうした調査によって、提言案の資料を作成し、2016年4月と5月に識者による意見交換会を開いた。

 その委員は6人で、斉木大・日本総合研究所創発センターシニアマネジャー、鈴木亘・学習院大学教授、森信介・日本在宅介護協会副会長、八代尚宏・昭和女子大学特命教授、結城康博・淑徳大学教授、そして座長として井出秀樹・慶応大学名誉教授である。

 意見交換会の内容はネット上で公開されている。政府各省の審議会などと違って、あくまで意見交換の場であり、報告書への制約は少ない。つまり、公取委として独自見解を表明するための、参考に過ぎないようだ。

 提言の冒頭の「趣旨」の中で、「公取委は、事業者の公正かつ自由な競争を促進し、もって消費者の利益を確保することを目的とする競争政策の観点から、介護分野の現状について調査・検討を行い、競争政策上の考え方を整理することとした」と、公取委の立場を鮮明に打ち出した。

 つまり「競争政策の推進」こそが公取委の使命であり、存在理由である。では、競争政策と何か。