たばこ業界、鉄業界でどんなM&Aが考えられる?

続いて、デジタル業界に明るくないというグループ2つには、II.他業界で次に起こるべきM&A(目的、統合レベル、気を付けるべきポイントと対処方法)を考えてもらいました。

グループ5のアイデア
AIやIoTのように今起こっていることではなく、さらに先の未来を考えたとき、文化として失われているもの、目の敵にされているようなものを対象にすると面白いのではないかと考えました。そこで浮かんできたのが、たばこです。今でこそ健康への害悪として目の敵にされていますが、古来ずっとあるものですから、この文化は残していくべきなのではないかと。ですから、たばこの成長を促すような買収を考えました。たとえば、高級感のある喫茶チェーンなど新たな文化をつくっていける空間を提供している企業を買います。そして、たばこには健康に悪いというマイナスのイメージがあるので、当初はスモーカーを対象にした普及活動から始めて、イメージが好転したタイミングで文化人にカッコいいタバコの吸い方を提唱してもらうなどして広げていきたいと考えています

Q. 国内だけでなく海外でもプロモーションをやるんですか。

グループ5:たばこ文化が失われている国すべてを対象に考えています。

Q. たばこのプロモーションに対して日本以上に厳しい国もあるので、倫理と両立させるのは難しくないでしょうか。

グループ5:たばこそのものではなく、たばこを吸う場所としてのプロモーションを検討するとか、各国の規制をよく調べて進められる部分でやります。

留目:提携でなく買収なのはどうしてですか?

グループ5:ガバナンスをきかせるために資本を入れたほうがいいと考えました。喫煙体験のできる場所を増やしていくイメージですが、ニコチンフリーのタバコなどのラインナップを増やして文化の維持を図っていきます。

矢野:ニコチンの出る伝統的なタバコを念頭に考えると、それを公共の場で吸えるよう推奨するというのは、そもそもビジネスとしていいのでしょうか。その是非はビジネスよりもっと上位の概念ではないかと思うし、規制がさらに強化されたらあらがえないのでビジネスとしてリスクを感じます。

グループ6のアイデア
私たちは、プラスチックを扱う素材メーカーのM&Aについて考えました。同業界では素材が多様化したり成型技術が向上していますが、顧客にそれが十分に伝わっておらず価値を提供しきれていないのではないかという仮説を出発点にしました。デザイン要素を強めるなど解決策はいろいろ考えられますが、私たちが今回考えたのは、鉄鋼メーカーの買収です。お互いの客に今までと違う素材を提案することで新たな価値を提案でき、補完しあえるのではないかと考えました。検討課題としては、両者のカルチャーの違いですとか、カニバったときの収益管理などです

Q. 買うとしたら、どういう地域の鉄鋼メーカーを買うのですか?たとえばイギリスの鉄鋼メーカーはインドのタタ・グループがもっていて、買うところがない状況です。

グループ6:正直、そこまで検討できていないのですが、地域性というよりはお客様に新たな価値を提供するうえで最適な技術を要するとか、そうした新たな試みに積極的なところと組んでいくのが得策ではないでしょうか。

松永:すごく面白いアイデアだと思いました。「鉄は力なり」と言ったのは僕たちの父親の世代ですよ。鉄鋼業界というのは、かなり再編成もしてしまっているうえ、レアメタルなどの新素材も騒がれ始めて“斜陽”といえる中、あえて鉄にいくというのは、何かすごいポリシーや愛があるのではないかと……。

留目:セラミックスとかじゃなくて、あえて鉄っていうのが興味深い(笑)。

松永:単に鉄の代替として使うというのではなく、日本人のすごさである技巧の高さが生かされる策が出てきたらもっと魅力的だと思います。

留目:車にしろ住宅にしろ、素材に何を選ぶかすごくフレキシブルになってきてるのは事実ですね。車なら鉄、家なら木とかいうのも昔以上に崩れてきているなか、素材メーカーがもっと大きな超巨大コングロマリットになる可能性はあるのかもしれない。

矢野:面白いですよね。トヨタとかも鉄とプラスチックを両方もっていたら訴求力が違ってくるかも。

松永:ただ考えるべきは加工技術なのか素材なのかという点で、トヨタが強いのは前者であって素材では競争力は出ないと思う。同じ鉄を使ってもいいベアリングはトヨタにしか作れない、といった加工技術で差別化できているのであって、素材は安けりゃ安いもののほうにして加工技術に投資したほうが戦略的には正しいと僕は思います。

心がけたい「ゼロベース発想」と「ユーザー視点」

留目:M&Aやインテグレーションというのは、普段あまり考えないテーマだと思うので結構大変だったと思うけど、いい議論が出てきてよかったです。

矢野:たばこであれだけ議論を巻き起こしたのは素晴らしい。特別賞をあげたいです(笑)

松永:2つ気になった点がありました。ひとつは「ディスラプション(中断、破壊)」の発想が全然なかったこと。既存ベースで、いかに発展させようかという議論にとどまっていたのが少し残念でした。あとは、レノボも“パーソナル”を打ち出していますし、もっと「ユーザー視点」で考えるのが大事です。ぜひこの2つに気をつけて今後も議論を続けて下さい。

これからの世界がどう変わるのか見据えながら、自分の生き方や会社との関係を捉え直してほしい、と留目社長

留目:お伝えしたかったのは、M&Aの実務の話よりむしろ、産業構造が今後一層ドラスティックに変わっていくと思われる背景と、そのように変わっていく中で、会社はもちろん、自分の生き方や会社との関係をどういうふうに捉え直すべきなのか、ということでした。

 冒頭の話と重複しますが、第4次産業革命は今後5~10年でさらに大きな変化を生むと思いますので、日々そういう発想で会社のオペレーションを私自身も考えていますし、みなさんも所属している会社の戦略や、自分の人生を常にそういう視点でとらえ、自分がやりたい仕事や伸ばしたいスキルを見極めていってください。この変化は、会社にとらわれてしまっていた個人が、より自由に、自分のやりたいことと、社会の求めていることを見極めて、価値を生み出して生きていくことができるになっていく、ということでもありますので、是非狭い視野にとらわれることなく、将来価値を生むであろうプロジェクトや、それに対する自身の関わり方等を想像してみてください。

 今日は面白いアイデアを沢山出していただき、みなさんありがとうございました!