15年前、私は事務所を作る時、中国人が集まる池袋や新宿ではなく、事務所を神保町の近くに設けた。皇居、国会、中央省庁が集まる千代田区という地名や郵便番号101という数字に心惹かれ、これらを事務所の所在地を選ぶ際の重要な判断要素にした。神保町周辺に出版社や書店が密集するという要素も判断に大きな影響を与えた。

 しかし、年明けとともに、事務所をスカイツリーのある墨田区に引っ越すことにした。周辺から「都落ちすると思われるとイメージダウンになりかねない」という反対の声もあることはあるが、私は意地を通した。

 15年前よりは多少名前が売れたことも、引っ越しを強気に決定できた原因だ。千代田区という地名に威を借りる必要はもうない。インターネット時代になり、電子メールによる連絡が日常化している。郵便番号が101かどうかはもう関係ない。さらに、出版業界を覆う不況ぶりを見て、神保町の近くにいる必要性も次第に感じなくなった。

 むしろ、職住接近により魅力を覚えた。今までの場所に事務所を設けてから15年が経ち、来年はちょうど新しい10年が始まる2011年である。そこへさらに事務所の賃貸契約もちょうど更新する時期を迎えた。切りもいい。ちょうどそこへいい物件があって、心が一気に揺れてしまい、即断即決で引っ越しを決めた。

 数日前、香港のある有名な出版社で国際部長をしている友人と食事をした時、雑談で事務所の引っ越しに触れた。以上のような理由を聞いた友人は、「そうですね。インターネット時代になり、電子書籍の出版も考えなければならない今、書店街や出版社の近くに事務所を設けなくてもいい」と私の意見に賛同してくれた。

 そこからさらに日本の出版業界の不況ぶりに話題を広げた。日本の出版業界が、出口が見えないほどの深い霧に包まれ、深刻な不況に陥っている。しかし、友人から見れば、不況になった原因には、時代的な要因もたくさんあるが、出版業界関係者の努力不足によるところも大きいという。

 たとえば、行動を起こすスピード意識がない。友人が勤めるその会社は日本の出版社からたくさんの本の翻訳出版の権利を購入している。支払うべきものと提供すべき情報はすべて出した。だが日本の出版社からは2年経ってようやく結論が出た。しかし、2年の歳月が流れたため、出版事情も読者の興味と関心も大きく変わってしまった。「なぜ一冊の本の翻訳出版の権利を購入するために、2年もの時間をかけなければならないのか」と友人が憤慨する。