「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げて誕生した菅政権だが、いまやその姿は全く見えない。一方、世界に目を凝らせば、高い成長と充実した社会福祉を実現している国がある。その一つが北欧のスウェーデンである。
スウェーデンは、1990年代にバブルの崩壊で、日本をも上回る金融危機を経験した。日本との違いは、その90年代に税制、財政、福祉、年金制度について、「世紀の大改革」と呼ばれる構造改革を敢行したことだ。
もちろん、社会保障も含めた国民負担率は65%と日本の39%を大きく上回るが、国民はこのスウェーデン・モデルを支持している。いまや同国は高福祉・高負担の停滞した国ではない。
スウェーデンはどのような改革を行い、競争優位を確立していったのか。2004年から06年に、財務大臣を務めたペール・ヌーデル氏の特別寄稿を掲載する(※本寄稿は11月中旬に日本総合研究所主催で行われたシンポジウムおけるキーノートスピーチを要約した)。
民主主義、情報技術、市場経済という
三つの大変革が地球を飲み込んだ
過去20年間において、三つの大きな波、あるいは革命と呼んでいいかもしれない変化が、地球全体を飲み込みました。
第1は、民主主義の波です。1989年、これはベルリンの壁が崩壊した年ですが、米国のNGOの統計によれば、当時は、実質的な民主主義国家は、世界の中でも69ヵ国しかありませんでした。それが今日では120カ国以上の国々が民主主義と認められています。今や人類が共存していく一つの標準が、民主主義であると考えられています。
2番目の変化は、大量の情報伝達という目に見えない波です。私たちのほとんどが、いまポケットの中に携帯電話を持っています。しかも、この携帯電話は単なる携帯電話でなく、強力なコンピュータです。IT革命はわれわれの日々の生活を、劇的に変えました。情報技術によって、人々はつながり、それと同時にどんどん市場が大きくなってきました。
このことが3番目の変化につながります。市場経済原則の上に構築された、巨大な新規市場の台頭です。つまり、非効率な計画経済はもう時代遅れとなってしまいました。共産主義の衰退とともに、新たに生まれた市場経済が、過去20年間に世界を席巻してきました。